物体側焦点深度および像側焦点深度

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光学顕微鏡法の分解能について考える場合、光学軸と垂直な平面における2点間の横方向分解能がもっとも重要視されます(図1)。分解能のもう一つの重要な側面は、対物レンズの光軸方向(つまり縦方向)の解像力であり、これは光軸に沿って測定されるもので、多くの場合、物体側焦点深度と呼ばれます。

図1 - 物体側焦点深度の範囲

光軸方向分解能は、水平方向分解能と同じように、対物レンズの開口数のみによって決まるもので(図2)、接眼レンズは単に、解像された詳細を拡大してそれを中間像面に投影する役割を果たしているに過ぎません。旧来の写真術とまったく同じように、物体側焦点深度は、焦点が合っているもっとも近い物体の表面から、同時に焦点が合っているもっとも遠い平面までの距離によって決まります。顕微鏡観察法の場合、物体側焦点深度は非常に短く、通常はミクロン単位で計測されます。焦点深度には、物体側と像側の両方に存在します。

用語がこのように同じ意味で使用されると、特に両方の用語が顕微鏡の対物レンズの物体側焦点深度を示すために使用される場合など、混乱の原因になることもあります。幾何学的な像面は、標本のきわめて小さい薄片でもはっきりと描写できることが期待されているかも知れません。しかしそれぞれの像点では、収差がない場合でも拡大してしまい、この平面の上と下に拡大する回析像を生じます。このエアリーディスクは、顕微鏡の対物レンズによって生成される回折パターンの基本単位ですが、中間像面の中心を通る断面を表すものです。これによって、わずかに異なる標本面を通過する、Z軸のエアリーディスク強度プロファイルの有効焦点深度が増加することになります。

表1 - 物体側焦点深度および焦点深度

MagnificationNumerical ApertureDepth of Field
(µm)
Image Depth
(mm)
4x0.1055.50.13
10x0.258.50.80
20x0.405.83.8
40x0.651.012.8
60x0.850.4029.8
100x0.950.1980.0

焦点深度は、対物レンズの開口数と倍率によって変動し、一定の条件下では、開口数が大きいシステム(通常は拡大倍率も高くなります)の方が、開口数が小さいシステムよりも、物体側焦点深度は浅くなりますが、焦点深度は深くなります(表1を参照)。これは、フィルムの感光乳剤やデジタルカメラのセンサーが、焦点領域のある平面内で露光または照射されるため、顕微鏡写真では特に重要です。高倍率での焦点合わせで小さなミスがあっても、超低倍率の対物レンズの場合ほど致命的にはなりません。表1では、異なる開口数と倍率を持つ一連の対物レンズに対する、物体側焦点深度と中間像面での焦点深度を示しています。

顕微鏡の開口数が高い場合、物体側焦点深度は主に光波によって決まり、低い開口数では、不明瞭な光の幾何学的円環がこの現象の決定的な要因になります。複数の著者がそれぞれに、画像が許容できないほど鮮明になる焦点を決定する基準を用いるため、顕微鏡の物体側焦点深度を算出するさまざまな式が紹介されています。総物体側焦点深度は、光波と幾何光学的物体側焦点深度の合計として定義されます。

Formula 1 - Total Depth of Field

$$d_{ \mathrm{ tot } }= \frac { λ \cdot n } { \mathrm{ NA^2 } } + \frac { n } { \mathrm{ M \cdot NA } } e$$

ただし、d(tot)は物体側焦点深度、λは照明の波長で、nは、カバーガラスと対物レンズ前面レンズ素子との間にある媒質の屈折率(通常、空気〈1.000〉または油浸オイル〈屈折率 = 1.515〉)、NAは対物レンズの開口数を表します。変数eは、顕微鏡対物レンズの像面に置かれた検出器が解像できる最小距離を示しており、その対物レンズの横倍率がMです。この式を使う場合、物体側焦点深度(d(tot))と波長(λ)を同じ単位で表さなければなりません。たとえば、d(tot)をマイクロメートル単位で計算するのであれば、λはマイクロメートル単位で表さなければなりません(700ナノメートルの赤色光の場合、式では0.7マイクロメートルで表されます)。横方向限界分解能は、開口数の1乗と反比例するような方法で減少しますが、回折限界物体側焦点深度(式の最初の項)は、開口数の2乗と反比例して減少します。このように、軸方向分解能と、達成できる光学的断面の厚さは、顕微鏡の横方向分解能よりも開口数の系統によってはるかに影響を受けます。

ヒトの肉眼は通常、無限大から約25センチメートルまで対応することができます。つまり、ヒトが接眼レンズを通して、顕微鏡のイメージを観察するとき、その物体側焦点深度は、上記の式よりはるかに大きいということになります。一方、ビデオセンサーや写真乳剤は、固定された薄い平面内にあるため、これらのセンサーを使用する場合の物体側焦点深度と軸方向分解能は、この式のパラメータで規定されることになります。このような場合、軸方向分解能は、慣例によって、対物レンズで生成される三次元回折イメージの軸に沿った、焦点の上下にある、最初の最小距離の4分の1と定義されています。

図2 - 物体側焦点深度と開口数

この物体側焦点深度の値と三次元回折パターンの強度の分布は、コンデンサーの開口数が対物レンズの開口数以上の状況で、コヒーレントでない照射(または放射)光源に対する値として計算されています。一般的に、物体側焦点深度は、照明のコヒーレンスの増大に合わせて(コンデンサーの開口数が0に近づくにつれて)最大2倍増加します。ただし、部分的にコヒーレントな照明での三次元点像分布関数(PSF)も、それまで開口関数が均一でない状況で議論されていた場合は、さらに複雑に異なる可能性があります。顕微鏡の数多くの位相利用のコントラスト生成モードにおいて、物体側焦点深度は、上記の式から予想される値よりも想定以上に浅くなることがあり、光学的断面がきわめて薄くなることもあります。

デジタルおよびビデオ顕微鏡観察法の場合、撮像管またはCCDのターゲットで焦点面が浅いことや、高い開口数の対物レンズとコンデンサーによって高いコントラストが実現すること、あるいはモニターに表示されるイメージの倍率が高いことなどはすべて、物体側焦点深度の低下に結びつきます。このため、ビデオの場合、非常にシャープで薄い光学的断面を撮影することができ、同時に、薄い標本の焦点性能を非常に高い精度で定義できます。

Contributing Authors

Kenneth R. Spring - Scientific Consultant, Lusby, Maryland, 20657.

Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.

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物体側焦点深度および像側焦点深度

Introduction