顕微鏡対物レンズ概論

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顕微鏡対物レンズは、1次像の形成を担っている他、像質において中心的な役割を果たしていることから、光学顕微鏡の中で最も重要なコンポーネントと言えるでしょう。対物レンズの性能により倍率と分解能が決まり、標本の微細な部分をどこまで観察できるかが決まります。

図1 - 油浸無限遠補正アポクロマート対物レンズ

対物レンズは、光学顕微鏡の中で、設計と組立がもっとも難しいコンポーネントで、光が標本から像面に進むときに最初に遭遇する素子です。対物レンズという名前は、イメージングする対象物(標本)に、空間的にもっとも近いコンポーネントであるために付けられた名称です。

主要な顕微鏡メーカーは、広範囲の照明条件下において優れた光学特性を持つさまざまな設計の対物レンズを提供しており、同時に、一次収差に対するさまざまな補正機能も提供しています。図1の対物レンズは、60倍の油浸アポクロマートで、15枚のレンズが内蔵されていて、3群のレンズダブレットと1つのレンズトリプレットグループに分けて固定されており、他に3つの個々の内部単一素子レンズが含まれています。この対物レンズには、半球前面レンズと2番目のメニスカスレンズも含まれており、これらのレンズは、高い開口数でも、少ない球面収差で光線をキャプチャーできるよう、協調して機能します。ほとんどの油浸対物レンズと同様に、図1のアポクロマートにも、前面レンズ素子と標本が接触するときに損傷が起こるのを防止するためのスプリング式の格納型先端部品が搭載されています。内部のレンズ素子は、慎重に方向が設定され、対物レンズのバレルに封入された円筒の真鍮筐体にしっかりと固定されています。それぞれの対物レンズのパラメータ、たとえば開口数、倍率、筒長、収差補正の程度、その他の重要な特徴などは、バレルの外部に刻印されています。図1に示した対物レンズは、対物前面レンズと標本の間に入れる浸液としてオイルを使用する設計になっていますが、他の対物レンズの前面レンズ素子については、空気の他、水、グリセリンなどの浸液を使用できるようになっています。

最新の対物レンズは、多くのガラス素子でできていますが、(対物レンズの利用価値と価格を決定する要因となる)収差が高レベルで補正されており、平坦度も高くなっていることから、きわめて高い品質と性能を実現しています。対物レンズの製造に使用される構成技法と素材も、過去100年の間に大幅に改善しています。今日では、対物レンズはCAD(コンピューター支援設計)システムを使用して設計されており、均一な組成と品質、さらにはきわめて特異的な屈折率を両立する先進の希土類元素ガラス形成技法も使用されています。このような先進技法を利用することで性能が向上したことから、各メーカーは、分散が非常に少なく、コマ収差、非点収差、幾何学的歪み、像面湾曲、球面収差、色収差などのほとんどの光学アーチファクトを補正した対物レンズを製造できるようになっています。現在、顕微鏡対物レンズでは、広視野によって増大した収差までも補正していますが、それだけでなく、光の透過率を大幅に増加させることによって、フレアも劇的に低減させています。その結果、明るく、シャープで鮮明なイメージが得られるようになっています。

研究施設の大部分の顕微鏡で採用されている、もっとも安価な(同時にもっとも一般的な)対物レンズは、アクロマート対物レンズです。この対物レンズでは、軸の色収差に対し2つの波長(青と赤、それぞれ約486ナノメートルと656ナノメートル)で補正しており、補正した光を単一の共通の焦点に集めています。さらにアクロマート対物レンズでは、球面収差についても、緑色(546ナノメートル、表1を参照)で補正されています。ただ、アクロマート対物レンズの補正には限界があるため、カラー顕微鏡観察法や顕微鏡写真で標本の検査やイメージングを行うとき、それなりのアーチファクトが生じる可能性があります。フォーカスが緑色のスペクトル領域で選ばれた場合、イメージに赤紫色のハロー(多くの場合、残存色と呼ばれます)が出てくることがあります。アクロマート対物レンズを顕微鏡写真で使用する場合は、光を緑のフィルター(干渉フィルターと呼ばれます)に通し、白黒フィルムを使用すると、最良の結果が得られます。アクロマート対物レンズの難点は、平坦度の補正がない点でした。そのため、この数年の間、ほとんどのメーカーは、アクロマート対物レンズにフラットフィールド補正機能を搭載しており、これらの補正対物レンズにプランアクロマートという名前をつけて提供しています。

図2 - 一般的な対物レンズの光学補正因子

その次に補正レベルと価格が高いのは、フルオリートまたはセミアポクロマートと呼ばれる対物レンズで(図2の真ん中の対物レンズ)、これは、その構成にホタル石が元々使用されていたことからつけられた名前です。図2では、3つの主要な対物レンズクラスを示しています。補正機能がもっとも少ないのが、すでに説明したアクロマートで、球面補正を追加したのがフルオリート(またはセミアポクロマート)、もっとも補正機能が多い対物レンズがアポクロマートです。図2の左側に示している対物レンズは10倍のアクロマートで、内部に2枚のレンズと前面レンズ素子が含まれています。図2の中央に示しているのは10倍のフルオリート対物レンズで、半球前面レンズと2番目のメニスカスレンズに加えて、2枚のレンズ群と3枚のレンズ群含む複数のレンズ群が搭載されています。図2の右側に示しているのが、10倍のアポクロマート対物レンズで、これには複数のレンズ群と単一の素子が含まれています。フルオリート対物レンズと構成は似ていますが、厚さと湾曲が異なっており、アポクロマート対物レンズに固有の構成で配置されています。

表1 - 対物レンズの収差補正

Objective Type
Spherical
Aberration
Chromatic
Aberration
Field
Curvature
Achromat 1 Color 2 Colors No
Plan Achromat 1 Color 2 Colors Yes
Fluorite 2-3 Colors 2-3 Colors No
Plan Fluorite 3-4 Colors 2-4 Colors Yes
Plan Apochromat 3-4 Colors 4-5 Colors Yes

フルオリート対物レンズは、先進のガラス組成で製造されており、ホタル石や新しい人工の代替材料などの材料が使用されています。この新しい組成により、収差の補正を大幅に改善することができます。フルオリート対物レンズも、アクロマートと同じように、赤色光と青色光に対して色収差が補正されています。フルオリートではさらに、球面収差についても2色または3色で補正されており、アクロマートでの1色と対照的です。フルオリート対物レンズは、アクロマートと比べて補正機能が優れていることから、対物レンズの開口数を大きくすることができ、結果的にイメージが明るくなっています。フルオリート対物レンズでは、アクロマートより解像力も高く、コントラストも強くなるため、白色光でのカラー顕微鏡写真についてはアクロマートよりも適しています。

補正レベル(および価格)がもっとも高いのはアポクロマート対物レンズで、図2および図3でこれを示しています。アポクロマートは、現在入手できるものの中でもっとも補正レベルが高い顕微鏡レンズであり、価格が高額になっているのは、設計が洗練されていることに加え、製造時に慎重な組立が必要であるためです。図3では、10倍から100倍の倍率を持つアポクロマート対物レンズシリーズについて、そのレンズ素子を比較しています。低倍率のアポクロマート対物レンズ(10倍および20倍)では、高倍率のアポクロマート対物レンズ(40倍および100倍)より、作動距離が長く、対物レンズの全長が短くなります。アポクロマートは、色収差が3色(赤、緑、青)で補正されているためほとんど色収差がなく、球面収差については2つまたは3つの波長で補正されています(表1を参照)。アポクロマート対物レンズは、白色光でのカラー顕微鏡写真ではベストチョイスになります。アポクロマート対物レンズは補正のレベルが高いため、同じ倍率でも、アクロマートやフルオリートよりも、開口数が通常高くなります。新型の高性能フルオリート対物レンズおよびアポクロマート対物レンズでは、色収差が4色(暗青色、青色、緑色、赤色)以上、球面収差が4色で補正されています。

図3 - アポクロマート対物レンズ

どのタイプの対物レンズも、倍率が高くなると、強い像面湾曲が発生し、平坦ではなく湾曲したイメージが投影されるようになって、アーチファクトもかなり増加します。湾曲したレンズ表面のために派生するこの固有の条件を克服するため、光学設計者は、視野全体で共通のフォーカスが得られる平坦性補正対物レンズを製作しました。平坦性補正を持ち、歪みが小さいこのような対物レンズは、残存収差の程度に応じて、プランアクロマート、プランフルオリート、プランアポクロマートと呼ばれます。このような補正は、高価にはなりますが、デジタルイメージングや従来型の顕微鏡写真では、非常に高い価値をもたらします。

未補正の像面湾曲は、フルオリート(セミアポクロマート)対物レンズやアポクロマート対物レンズでもっとも大きな収差になり、長年の間、避けられないアーチファクトとして受け入れられてきました。そのため、日常的な利用において、すべての標本で詳細な画像を取得するときは、中心と端部の間で、視野を持続的にフォーカスし直す必要がありました。平坦性(プラン)補正の対物レンズへの導入は、顕微鏡写真とビデオ顕微鏡法での使用に完全に適したものであり、今日では、これらの補正が、汎用対物レンズと高性能対物レンズの両方において標準になっています。図4の単純なアクロマートの例で示しているように、像面湾曲を補正しようとすると、対物レンズにかなりのレンズ素子を追加することになります。図4の左側に示しているのは未補正のアクロマートで、単純な薄い前面レンズ素子に加えて、2つのレンズダブレットがあります。対照的に、図4の右側で示している補正を施したプランアクロマートでは、3つのレンズダブレットの他、中央にレンズトリプレットグループ、半球前面レンズの後ろにはメニスカスレンズが配置されています。この例では、プラン補正によって、6つのレンズ素子が追加され、洗練されたレンズグループとして結合されていますが、結果として、対物レンズの光学的に複雑になります。プラン補正でレンズ素子が大幅に増加するという現象は、フルオリート対物レンズとアポクロマート対物レンズでも発生するため、結果的に多くの場合、内部にある対物レンズスリーブの中では、レンズ素子がきわめて窮屈な状況になります(図1を参照)。一般的に、プラン対物レンズで像面湾曲を補正する場合は作動距離が著しく犠牲になる上、高倍率バージョンでは、その多くで凹面前面レンズが使用されることになり、場合によっては清掃や保守がきわめて難しくなります。

図4 - 対物レンズでの像面湾曲補正

一般的に古い対物レンズは、開口数が小さく、色収差と呼ばれる収差の影響を受けるため、接眼レンズで補正する必要があります。この種の補正は、有限系の時代は一般的でしたが、最新の無限遠補正対物レンズおよび顕微鏡では必要ありません。近年、最新の顕微鏡対物レンズのでは、色収差の補正機能が対物レンズ自体に搭載されているか(ニコンとオリンパス)、結像レンズで補正されています(LeicaとZeiss)。

無限遠補正システムの中間像は、光路内の結像レンズ背面の明視距離(公式には光学筒長)に現れます。この距離は、メーカーが課した設計の制約により、160〜250ミリメートルの間で変動します。無限遠補正対物レンズの倍率は、焦点距離を対物レンズの焦点距離で割ることによって、計算することができます。

ほとんどの生物学的用途と岩石学的用途において、標本の完全性を守ると同時に明瞭な観察窓を設ける目的で、標本を覆うためのカバーガラスが利用されます。カバーガラスは、標本のそれぞれの点から発生する光円錐を収束させる働きがありますが、同時に、対物レンズで補正しなければならない色収差と球面収差(結果としてのコントラストの低下)の原因にもなります。光線が収束する程度は、カバーガラスの屈折率、分散、厚さで決まります。屈折率は、どのカバーガラスでも大体一定ですが、厚さについては0.13〜0.22ミリメートルの間で変動します。もう一つ問題になるのは、湿ったプレパラートまたは厚い封入プレパラートにおいて、標本とカバーガラスの間に入っている水性溶媒または過剰な封入剤です。たとえば、屈折率がカバーガラスと大幅に異なる生理食塩水の場合、対物レンズは数ミクロンの厚さの水の層を通してフォーカスしなければならず、これが大きな収差の原因になる他、焦点面の上と下で対称的でない点拡がり関数の偏差の原因になることになります。このような要因によって、カバーガラスの屈折率や厚さに事実上の変化量が加わることになって、顕微鏡のコントロールが難しくなります。

対物前面レンズと標本カバーガラスの間にあるイメージング剤も、対物レンズ素子の設計における球面収差とコマ収差の補正という点で非常に重要です。倍率が比較的低い対物レンズは、開口数も相対的に低くなり、対物前面レンズと標本カバーガラスの間のイメージング剤が空気しかないようなドライ系で使用される設計になっています。間に空気がある場合の理論上の最大開口数は1.0ですが、実際には、0.95以上の開口数を持つドライ系対物レンズを製造することはほとんど不可能です。開口数が0.4以下のドライ系対物レンズでは、カバーガラスの厚さの変動の効果は無視することができますが、開口数が0.65以上になると偏差も大きくなり、0.01ミリメートル程度の小さな変化であっても、球面収差の原因になることがあります。これは、空気中で非常に短い作動距離を使用すると同時に、球面収差に対して微妙な補正が必要になる高倍率のアポクロマートの場合に問題になり、結果的にシャープなイメージを得ることが難しくなります。

これに対処できるよう、多くの高性能アポクロマートドライ系対物レンズには補正環が付いており、これを使うことによって、カバーガラスの厚さの変動に合わせて球面収差を補正できるようになっています(図5を参照)。球面収差に対する光学補正は、補正環を回すことで行い、それに合わせて、対物レンズ内の2つのレンズ群が、互いに近づいたり離れたりします。図5の左側の対物レンズでは、厚さ0.20ミリメートルのカバーガラスに合わせて補正環を調整しており、調整可能なレンズ素子が互いに非常に近い位置に配置されています。対照的に、図5の右側の対物レンズでは、非常に薄いカバーガラス(0.13ミリメートル)に合わせて補正しているために、距離が大きめに開いています。正立透過光顕微鏡用に設計された大部分の補正環対物レンズには、0.10〜0.23ミリメートルの厚さを持つカバーガラスに対応した調整範囲があります。倒立顕微鏡での組織培養標本の観察のために設計された多くの位相差専用対物レンズの場合は、0〜2ミリメートルという、さらに広い補正範囲があります。このため、しばしばこのサイズ範囲で厚さが劇的に変動する、ほとんどの培養容器の底部領域についても、それを通して標本を観察できるようになっています。補正環対物レンズでは、カバーガラスがないことを表す0に調整を設定すれば、血液塗抹のようなカバーなしの標本も観察することができます。

補正環が付いていない高開口数のドライ系対物レンズでカバーガラスの厚さがあまり問題にならない場合でも、低開口数の対物レンズよりも劣ったイメージが生成されることがしばしばあります。このため、カバーガラスの変動によって発生するアーチファクトがなく、優れたコントラストを実現するためには、低い倍率(と開口数)の対物レンズを選択するのが賢明です。たとえば、開口数が0.65の40倍の対物レンズの方が、開口数0.85の60倍の対物レンズよりも、シャープなコントラストと鮮やかさを持つ、優れたイメージを生成できることもあります。理論的には、高い倍率の対物レンズの方が、分解能が高いにもかかわらずです。

図5 - 球面収差のための補正環

カバーガラスの標準的な厚さは0.17ミリメートルで、これは1½番のカバーガラスに設定されています。残念ながら、すべての1½番カバーガラスが、精密公差(0.16〜0.19ミリメートルの範囲)に準拠して製造されているわけではなく、しかも多くの標本には、標本とカバーガラスの間に媒質が入っています。カバーガラスの厚さの補正は、顕微鏡の機械的鏡筒長を調節するか、(すでに説明したように)対物レンズバレル内の重要な素子の間の隙間を変更する専用の補正環を利用することによって行うことができます。補正環は、対物レンズの最高の性能を引き出すために、このような微妙な差を調節する目的で利用されます。補正環付きの対物レンズを正しく利用するためには、顕微鏡使用者の経験も必要ですが、同時に、適切なイメージ基準を使用して環を設定し直すだけの臨機応変さも必要になります。補正環を調節している間は、フォーカスが変わり、像も明瞭でなくなります。以下に示した手順を利用して、標本イメージの変化を観察しながら、対物レンズの補正環を少しずつ調整するようにしてください。

  • 対物レンズ本体の目盛りを0.17に合わせます。
  • 標本をステージに置き、標本にピントを合わせます。観察対象はできるだけ小さいものを選びます。
  • 補正環を少しずつ回し、対物レンズのフォーカスを合わせ直して、イメージが改善しているか劣化しているか判断します。ほとんどの標本プレパラートはカバーガラス/媒質のサンドイッチが厚すぎることで悪影響を受けているというのが実情であるため、最初に大きい補正値(0.18〜0.23)の方に回します。
  • 補正環を一方向だけに回しながら、イメージが改善しているか劣化しているか判断するために、前の手順を繰り返します。
  • イメージが劣化している場合、同じ手順を行い、補正環を逆方向(低い値の方向)に回して、最適な分解能とコントラストになるポイントを探します。

オイル、グリセリン、水などの浸液を使用する対物レンズを設計することによって、対物レンズの開口数が劇的に増えるということもあります。カバーガラスと同程度の屈折率を持つ浸液を使用すれば、大きく傾いている光線も屈折しなくなり、対物レンズによってそのまま把握できるようになるため、カバーガラスの厚さの変動によるイメージの劣化が実質的に起こらなくなります。典型的な油浸オイルは、屈折率が1.51で、カバーガラスと同程度の分散があります。標本を通過する光線は、カバーガラスと油浸オイルの間で同質の媒質に遭遇するため、レンズに入るときは屈折せず、上の表面から出ていくときにのみ屈折します。標本が最初の対物レンズの無収差点に置かれている場合、レンズ系のこの領域のイメージングについては、球面収差が完全になくなるということになります。

図6 - 油浸顕微鏡対物レンズ

実際の油浸対物レンズの一般的な設計では、半球前面レンズ素子の後ろに、凸メニスカスレンズ、その後にダブレットレンズグループが続いています。図6で示しているのは、典型的なアポクロマート油浸対物レンズの最初の2つのレンズ素子で発生する無収差屈折です。標本は、Pの地点、つまり半球レンズ素子の無収差点で、顕微鏡のスライドガラスとカバーガラスに挟まれています。半球レンズの後部で屈折した光線は、メニスカスレンズの最初の表面の湾曲の中心でもある、P(1)の点から進んでいるように見えます。屈折した光線は、最初の表面の径に沿ってメニスカスレンズに入り、その表面では屈折しません。メニスカスレンズの後部表面では、光線が無収差で屈折するため、P(2)の地点で分岐するように見えます。対物レンズ内のその後のレンズグループの表面における光線の屈折が、Pから発生している光線の収束を補い、中間像を形成します。

正しく設計された油浸対物レンズでは、球面収差の量を最小限にとどめますが、同時に最初の2つのレンズ素子で生成する色収差についても補正します。光円錐が、最初のレンズ素子に入る前に部分的に収束するという事実のために、球面収差のコントロールは比較的容易になります。ただし、カバーガラスと最初のレンズ素子の間にオイルを使わないまま油浸対物レンズを使用すると、イメージに不具合が生じるということは注意しておく必要があります。これは、前面レンズの表面で発生する屈折のためで、そのために、対物レンズ内のそれ以降のレンズコンポーネントでは補正できない球面収差が起こります。

誤った浸液を使用すると、油浸対物レンズの利点は大きく損なわれます。顕微鏡メーカーが製造する対物レンズでは、屈折率と分散については誤差が厳しく設定されており、カバーガラスと対物前面レンズの間の液体についても、値が合致していなければなりません。そのため、対物レンズメーカーが推奨しているオイル以外は使用せず、異なるメーカーの油浸オイルを混ぜないようにしてください。結晶化や相分離などの原因になります。

浸液として水やグリセリンを使用する対物レンズは、培養した生体細胞や、生理食塩水に浸した組織断片などに対する用途にも使用することができます。プランアポクロマート水浸レンズには補正環が付いており、開口数は1.2以下になっていますが、これは、同タイプの油浸レンズと比べてわずかに低い値に過ぎません。これらの対物レンズを使用すると、顕微鏡使用者は、最大200ミクロンの水性媒質を通してもフォーカスでき、しかも優れた光学補正が維持されます。欠点は、開口数が高い水浸レンズは高価で、対物レンズを屈折率の高い組織や細胞部分の深部までフォーカスさせると像が劣化するという問題もあります。水浸、グリセリン浸、油浸対物レンズの詳細については、Molecular ExpressionsのMicroscopy Primerのページを参照してください。

Author

Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.

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