共焦点概念概論

Read in English

共焦点顕微鏡法には、浅い被写界深度、焦点以外のグレアの排除、厚い標本から一連の光学的断面を収集できる能力など、従来型の光学顕微鏡法を上回る利点があります。生物医科学分野では、共焦点顕微鏡法の主な用途として、通常1つまたは複数の蛍光プローブで標識を付けた固定細胞、生体細胞または組織のイメージングがあります。

図1 - 共焦点顕微鏡法の主要な光路

従来型の広視野光学顕微鏡を使用して蛍光標本をイメージングするとき、標本の関心領域から離れた所から放出される二次蛍光が、焦点が合っている形状の分解能に影響を及ぼします。この状況は特に、約2マイクロメートル以上の厚さを持つ標本で問題になります。共焦点イメージングアプローチでは、軸方向と水平方向の両方の分解能がわずかに改善していますが、これは、こういった機器が、蛍光で標識した厚い標本に発生する「焦点以外」のフレアを画像から排除できるためです。その結果、近年、この技法の人気が爆発的に増加しています。最新の共焦点顕微鏡は、操作が比較的簡単であることもあり、多くのマルチユーザーイメージング施設の基本機器の一部になっています。走査型共焦点レーザー顕微鏡(LSCM)で実現可能な分解能は、従来型の広視野光学顕微鏡よりはやや優れていますが、透過型電子顕微鏡の分解能よりは劣るため、一般的に使用されるこの2つの技法の間のギャップを、ある意味で埋めているとも言えます。図1では、基本的な共焦点顕微鏡法構成における主要な光路を示しています。

従来型の広視野顕微鏡では、水銀光源またはキセノン光源から標本全体に光を照射し、その画像を肉眼で直接見るか、あるいはイメージキャプチャーデバイスや写真フィルムに直接投影することができます。対照的に、共焦点顕微鏡法の画像形成の方法は根本的に異なります。照射は、1つまたは複数の合焦した光線、通常はレーザーからの光線で生成し、この照射で標本をスキャンします(図2)。この方法で標本をスキャンすることによって生成された画像は、光学的断面と呼ばれます。この用語は、機器が物理的な手段ではなく合焦した光を使用して、標本の断面画像を作り、それを収集するという非侵襲的な方法を意味しています。

図2 - 広視野顕微鏡法と標本のポイントスキャン

共焦点アプローチによって、生体標本のイメージングをこれまで以上に行いやすくなった他、三次元(z系)データの自動収集が実現し、複数の標識を使用した標本の画像取得も改善しました。図3は、ヨウ化プロピジウムで染色した蝶のサナギの翅の上皮全体の同じ領域に対する、従来型の落射蛍光画像と共焦点画像を比較したものです。LSCM画像では、焦点面以外の蛍光フレアが排除されていることから、核の分解能が著しく向上していることがわかります。

共焦点レーザー顕微鏡(LSCM)は、生物医科学用途で現在もっとも広く使用されている共焦点技法です。この概論では、LSCMが、初心者ユーザーがもっとも頻繁に利用することになる設計であることから、LSCMに焦点を当てていきます。その他の特定分野の生物イメージングでは、別の機器の設計が好まれていることもあります。どの共焦点機器であっても、標本作製のプロトコルのほとんどは、少し修正するだけでそのまま使用することができ、これについては、デコンボリューション技法や多光子イメージングなど、光学的断面を生成する他の方法も同様です。

共焦点顕微鏡法の進化

一般的には、共焦点顕微鏡の発明は、実際に機能する顕微鏡を1955年に製作したマービン・ミンスキーの功績ということになっています。共焦点アプローチの発展はその大部分が、生物学的事象を生体組織で発生しているときに(in vivo)見たいという願望によって実現したものですが、ミンスキーについては、生体の脳内で染色の準備を行うことなくニューラルネットワークをイメージングするということが、その目標でした。ミンスキーが進化させ、1957年に特許を取った共焦点イメージングの原理は、現代のすべての共焦点顕微鏡で採用されています。図1は、落射蛍光顕微鏡法に応用した共焦点原理を示しており、これが、蛍光イメージングで使用されるほとんどの最新の共焦点システムの基本構成になっています。ミンスキーのオリジナル構成では、点光源としてジルコニウムアーク光源の前にピンホールが設けられていました。

図3 - 蝶の翅の上皮

点光源は、対物レンズによって標本上の所定の焦点面に集められ、そこを通った光は、2番目の対物レンズによって最初のピンホールと同じ焦点を持つ2番目のピンホールに集められました(この2つが共焦点になっていました)。2番目のピンホールを通過した光は、低ノイズの光電子増倍管に入り、そこで標本からの光の輝度に対応するシグナルが生成されました。2番目のピンホールは、標本の焦点面の上または下から生成する光が、光電子増倍管に到達するのを遮りました。焦点面より厚い標本で、焦点面以外の光またはフレアを排除するために空間フィルタリングを使用することが、共焦点アプローチの鍵です。ミンスキーの論文では、単一の対物レンズとダイクロイックミラーを並べて使用した反射光バージョンの顕微鏡についても記述されていましたが、これが現在使用されているシステムの基本になっています。

共焦点原理を使用して画像を構築するためには、何らかの方法で光スポットを集中させて標本上をスキャンしなければなりません。ミンスキーが最初に構築したオリジナル機器では、ビームの方が固定され、標本自体が、振動するステージ上で移動していました。このような構成は、スキャニングビームが顕微鏡の光学軸に固定されるため、画像に悪影響を及ぼすようなほとんどのレンズの問題が排除されるというメリットがあります。しかしながら、生物標本の場合は標本が移動することにより、揺れや歪みが引き起こされ、結果的に画像の分解能が低下する恐れがあります。さらに、ステージと標本が動いている場合、蛍光標識プローブのマイクロインジェクションなど、標本上でさまざまな操作を行うことが不可能になります。

標本上で照射ビームをスキャンする手段が何であっても、標本の画像を生成しなければなりません。ミンスキーのオリジナル設計では、実際の画像が形成されず、代わりに、光電子増倍管の出力が軍用長残光オシロスコープの画面上の画像に変換されましたが、これを記録する設備がありませんでした。ミンスキーはこの発明を発表した後、彼の顕微鏡の画像品質がそれほど良くなかったのは顕微鏡の分解能自体が低かったせいではなく、オシロスコープのディスプレイの品質が悪かったせいだと書きました。今では、1955年にミンスキーがこの技法を利用したにもかかわらず、特に生物学的構造のイメージングについて、共焦点アプローチの可能性を十全に示すことができなかったことが明らかになっています。このような理由のために、共焦点顕微鏡法はこれまでずっと画像品質に対する要求が非常に高かった生物学コミュニティによって、すぐに受け入れられることはないだろう、と彼は述べました。その時点で、彼らの手元には、優れた光学系を持つ光学顕微鏡があり、明るく染色したカラフルな組織断面を容易に観察できると同時に、高分解能のカラーフィルムで撮影することもできました。今日の共焦点顕微鏡では、画像が光電子増倍管の出力から連続で構築される他、CCD(電荷結合素子)を搭載したデジタルカメラでのキャプチャー、コンピュータイメージングシステムでの直接処理、高解像度ビデオモニターでの表示、ハードコピー装置での出力などが可能になっており、そのために際立った結果が得られるようになっています。図4では、最新の共焦点レーザー顕微鏡の情報フローを示しています。

図4 - LSCMの情報フロー模式図

光学顕微鏡で実現できる最終的な分解能は光の波長、対物レンズ、標本自体の特性によって決定されるため、その基本的な光学系は数十年の間、根本的に変わっていません。一方で、標本のコントラストを強くするための染色法や、光学顕微鏡法に関連するその他のテクノロジーについては、過去20年の間に劇的に進歩しました。現代のテクノロジーの進歩などにより、光学顕微鏡法の復興が進んで、その結果として、共焦点アプローチも進化し改善しました。ミンスキーの共焦点設計にプラスに働くような数多くの主要な技術的進歩が、生物学者や顕微鏡使用者にも徐々に利用できるように(さらに入手しやすく)なりました。このようなテクノロジーには、たとえば、点光源の改善をもたらす安定的な多波長レーザー、改善されたダイクロイックミラー、高感度・低ノイズの光検出器、安価な大容量メモリーチップが利用できるようになったために画像処理能力が向上した高速なマイコン、洗練された画像分析ソフトウェアパッケージ、高解像度のビデオディスプレイ、デジタルイメージプリンターなどがあります。

このようなテクノロジーは、1955年以降、別々のものとして開発されたものですが、それが、共焦点イメージングシステムにも少しずつ導入されるようになりました。たとえば、デジタル画像処理技法は当初、ウッズホール海洋研究所の研究者によって、1980年代初頭に効果的に利用されていました。彼らは「Video enhanced microscopes」と名付けられたこのテクノロジーを利用することによって、光学顕微鏡の理論的分解能を超えた、微小管などの細胞構造までイメージングできるようになりました。この明らかな分解能の向上は、低光量のSIT(Silicon Intensified Target)ビデオカメラをデジタルイメージプロセッサーに接続して画像をキャプチャーし、それをデジタル的に強調することによって実現しました。細胞構造は、微分干渉法(DIC)光学系を使用してイメージングされ、この画像は、デジタル処理方式を使用してさらに強調されました。

共焦点顕微鏡の設計は通常、標本がスキャンされる方法に基づいて分類されます。2つの基本的なスキャン方法は、ステージをスキャンするものと照射ビームをスキャンするものであり、根本的に異なるビームスキャンの方法が、少なくとも2つあります。ミンスキーの元々の設計は、原始的な音叉装置を利用したステージスキャニングシステムになっており、画像の構築に時間がかかりました。現在のステージスキャニング共焦点設計は、元々の考え方を発展させたもので、主に、マイクロチップ産業などの材料工学用途で使用されています。この原理に基づいたシステムは、マイクロチップ上のDNAのスクリーニングなど、生物医学用途でも近年人気を集めています。

生体系のほとんどのイメージングで使用されるより実践的な代替手段は、固定した標本上で照射ビームをスキャンするというものです。このアプローチは多くのシステムの基本原理になっており、今日流行している研究用顕微鏡もこれに基づいています。共焦点顕微鏡法の技術的な詳細については本稿で扱いませんが、基本的にはマルチビームスキャンとシングルビームスキャンという、2つの根本的に異なるビームスキャンの方法が使用されています。シングルビームスキャンは現在もっとも人気のある方法で、LSCMで使用される方法でもあります。この場合のビームのスキャンは、一般的にはガルバノメーターで動作するコンピュータ制御のミラーを使用することによって、1秒1フレームの割合で実行されます。一部のシステムでは、ビデオフレームレートに近い高速なスキャニングを行うために、音響光学デバイスや共振鏡を使用しています。これに代わる手段では、2つのビームを使用してリアルタイムに近い速さでスキャンしますが、この場合、通常ある種の回転するニプコー円板を使用しています。このようなシステムは、タンデム走査顕微鏡(TSM)から発想されたもので、蛍光標識を付けた標本から、より効率的に画像を収集できるよう改善が施されています。図5は、改善されたこのようなシステムを示していますが、このシステムでは、リアルタイム画像収集での低蛍光レベルの検出を強化するために、2枚のニプコー円板とマイクロレンズを採用しています。

図5 - ニプコー円板光学系構成

現在、光学的断面を生成するために使用される、共焦点顕微鏡法に代わる方法として、デコンボリューションと多光子イメージングの2種類の方法があります。この2つの方法は技術的に異なっていますが、共焦点方式と同じように、従来型の光学顕微鏡に基づいています。デコンボリューションでは、コンピュータに基づくアルゴリズムを使用して計算を行い、蛍光画像から焦点以外からの情報を除去します。より効率的なアルゴリズムや高速なミニコンピュータが登場したことによって、この技法は、イメージングの現実的な選択肢になってきました。多光子顕微鏡法では、LSCMと同じスキャニングシステムを使用していますが、検出器にピンホール開口部が必要ありません。ピンホールが不要なのは、レーザーが焦点上の蛍光色素標識のみを励起し、それによって焦点以外からの放出が発生しないためです。生体組織のイメージングにおけるその他の利点として、レーザービームから吸収されるエネルギーが少ないために、標本におけるフォトブリーチングが少ないということもあります。

従来型の光学顕微鏡は、LSCMを構築する際の基盤になります。タングステンランプや水銀ランプの代わりに、レーザーを光源として使用している他、高感度の光電子増倍管(PMT)検出器に加え、スキャニングミラーやその他のスキャニング装置を制御し、画像の収集と表示を可能にするコンピュータをこれに組み合わせています。画像が取得されると、デジタルメディアに格納されます。格納された画像は、顕微鏡システムのコンピュータやその他のコンピュータ上で、さまざまな画像処理ソフトウェアパッケージを使用して分析することができます。

LSCMの設計のために、照明と検出が標本上の単一の回折限界点に制限されます。この照明点は対物レンズによって標本上に集められ、コンピュータ制御されたある種のスキャニング装置を使用して、標本上でスキャンされます。標本から送られた一連の光の点が、ピンホール(場合によってはスリット)を通過して光電子増倍管によって検出され、PMTからの出力を基にコンピュータで画像が作られて表示されます。染色していない標本であっても、標本から反射される光を使用して表示することができますが、通常は1つ以上の蛍光プローブで標識します。

比較的成功している市販のLSCMの1つは1990年頃に論文で報告されたものですが、発生生物学者が直面する、得体の知れない根本的な問題に対する対策として設計されたものでした。従来型の落射蛍光顕微鏡法では、免疫蛍光的に標識された、胚の内部にある構造体や個別の高分子の多くは、2細胞段階を過ぎるとイメージングすることができません。これは、細胞数が増えるときも、胚全体の体積がほぼ同じままであるためで、つまり、密集した細胞が増えるにつれて、対象の焦点面にある細胞の蛍光が増加し、それが画像分解能と干渉するということになります。

図6 - ニコン共焦点レーザー顕微鏡構成

この問題に取り組んでいた研究者たちは、当時入手可能だった、どの共焦点システムもこの必要性を満たしていないことに気付きました。当時のテクノロジーには、1枚の画像に約10秒かかるなど画像の生成に時間がかかりすぎるステージスキャニング顕微鏡と、開発途上であったことから当時の蛍光イメージングでは現実的でなかったマルチビームスキャニング機器しかありませんでした。LSCMは、従来型の落射蛍光顕微鏡法や、同じ時期に開発された他のいくつかの技法に適した設計になっており、現在、複数の民間企業から生物医学コミュニティに提供されている洗練された機器の先駆的存在になりました。図6では、ニコンの最初の共焦点システム、PCM 2000を、ECLIPSE E1000正立顕微鏡に搭載した状況を示しています。ニコンの最新の共焦点レーザー顕微鏡としては、AXシリーズがあります。

開発された専用の機器では、光検出器の前のピンホールの直径を調整することによって、光学的断面の厚さを変化させることができます。このような光学的な調整は、固定サイズのピンホールを使用した他の設計と比較すると、生物学的構造をイメージングする上できわめて柔軟になります。標本でスキャンされる領域の範囲を小さくして、スキャンした情報を(走査電子顕微鏡で倍率を変えるのと同様の方法で)同じサイズのデジタル配列に置き換えて格納または表示することによって、分解能を犠牲にすることなく、画像を拡大縮小することができます。この機能を実現することにより、さまざまな倍率を1つの対物レンズに組み込むことができるため、ともすればレンズを交換するときに見失ったり場所がわからなくなったりする可能性がある、稀な事象や過渡的な事象をイメージングするときに、きわめて有用になります。

市販のベンダーが現在提供しているLSCMが洗練され柔軟であることから、近年、共焦点顕微鏡法の人気が爆発しており、多くのマルチユーザー施設が電子顕微鏡よりもこのような機器を優先して購入しています。共焦点顕微鏡法には、現在の多くの研究対象分野におけるさまざまな用途において、従来型の光学顕微鏡法のために準備した標本でも、きわめて高品質の画像を比較的簡単に取得できるという利点があります。

第一世代のLSCMでは、固定した標本において良好な結果が出ていましたが、レーザーからの光エネルギーがかなり無駄になっていた上、イメージングの際に生体標本を生かしておくためにかなりの努力を払わないと、標本を死なせてしまうという傾向がありました。このような制約があったにもかかわらず、顕微鏡によって生成される固定標本のイメージングが非常に優れていたため、共焦点アプローチは生物学的イメージングの専門家によって、完全に受け入れられました。それ以降のすべての世代の機器において、イメージングプロセスのあらゆる側面で技術的な進歩が見られました。また、新しい機器ではエルゴノミクスや利便性も大幅に改善されているため、位置合わせ、フィルターの組み合わせの変更、レーザーパワーの調節などが、現在は通常、ソフトウェアでコントロールされるようになり、すべてが簡単で短時間に行えるようになっています。現在では、最大3つの蛍光色素を同時にイメージングできるようになっており、順次行う場合はそれ以上の蛍光色素も使用できます。画像処理段階については、改良された信頼性の高いソフトウェア、大容量のディスクストレージを持つ高速なコンピュータ、大容量で安価なランダムアクセスメモリーなどが利用できるようになったことから、こちらも大幅に改善が進んでいます。

Contributing Authors

Stephen W. Paddock - Laboratory of Molecular Biology, Howard Hughes Medical Institute, University of Wisconsin, Madison, Wisconsin 53706.

Thomas J. Fellers and Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.

Share this article: