蛍光タンパク質概論

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1960年代前半、緑色蛍光タンパク質の発見により、研究者は遺伝子工学的に、蛍光タンパク質を目的のタンパク質を融合し、生きた生体、細胞内で起こる生命現象を可視化できるようになりました。この発見は細胞生物学分野において新しい時代を切り開くことに繋がりました。緑色蛍光タンパク質、またそこから遺伝子改変された様々なカラーバリアントが増えたこと、また超高速、かつ高感度なデジタルカメラやマルチトラッキング可能なレーザーコントロールシステムなど、蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡における近年の技術的な進歩もあり、蛍光タンパク質は数々のライブセルイメージング実験で計り知れないほどの貢献をしています。

図1 - 生細胞での蛍光タンパク質標識

1961年、ワシントン大学のフライデーハーバー研究所で働いていた下村脩とフランク・ジョンソンが、オワンクラゲからカルシウム由来の生物発光タンパク質を初めて分離し、これをイクオリンと命名しました。その分離の過程において、イクオリンと複合体を形成し、イクオリンの青色発光特性を欠いているにもかかわらず、紫外線光を当てると緑色の蛍光を生成できる2番目のタンパク質が見つかりました。この特性により、緑色蛍光タンパク質(GFP)という名前がつけられました。その後20年間をかけて、研究者たちは、クラゲの発光器官において、カルシウムイオンに反応したイクオリンが青色発光し、緑色蛍光タンパク質はその光により緑色蛍光を発するということを究明しました。

緑色蛍光タンパク質の遺伝子は1992年に初めてクローニングされましたが、当初は、分子プローブとしての大きな潜在性については理解されていませんでした。その後数年経ってから、細菌と線虫の遺伝子発現を追跡するために融合産物が使用されてから、状況が一変しました。この初期の研究以降、緑色蛍光タンパク質はさらに改良が進み、さまざまな色を持つ変種、融合タンパク質、バイオセンサーが多数生み出されましたが、これらが総称として蛍光タンパク質と呼ばれています。最近では、他の種の蛍光タンパク質も同定され分離されており、カラーパレットはさらに広がりを見せています。蛍光タンパク質技術が急速に進化したことにより、この遺伝子工学的手法で開発された蛍光分子は、生細胞内の生体分子にタグ付けして追跡するだけにとどまらない広範囲の用途で利用されるようになり、現在では、その価値が十分に評価されるようになっています。

図1で示しているのは、細胞内(細胞小器官)をターゲットにした融合産物を使用して、複数の蛍光タンパク質標識を生細胞につけた例です。図1(a)では、フクロネズミの腎皮質近位尿細管上皮細胞(OK株)を示しており、蛍光タンパク質バリアントのカクテルを、核(改良型青緑色蛍光タンパク質:ECFP)、ミトコンドリア(DsRed蛍光タンパク質:DsRed2FP)、微小管網(改良型緑色蛍光タンパク質:EGFP)への輸送を仲介するシグナルペプチドに融合させ、トランスフェクトしたものです。図1(b)では、ヒト子宮頸部腺癌上皮細胞(HeLa株)で構成される同様の標本を示しています。このHeLa細胞は、ミトコンドリア系をターゲットにした「フルーツ」タンパク質、mCherry同様、青緑色(mTurquoise)および黄色(mVenus)の蛍光タンパク質コーディング領域(それぞれゴルジ複合体および核)に融合した細胞内局在化ベクターでコトランスフェクトされています。

操作を加えたベクターをトランスフェクションした後、生細胞、組織、生体全体で発現できる蛍光キメラタンパク質を構築するために、緑色蛍光タンパク質とその変異対立形質、青色、青緑色、黄色の各蛍光タンパク質が使用されます。赤色蛍光タンパク質は、珊瑚虫など、他の種から分離されたもので、同様の方法で利用されています。蛍光タンパク質技法の場合、標識を付けたタンパク質の精製や、タグ付け、細胞内への導入などにおいて問題がないだけでなく、表面または体内の抗原に対して特定の抗体を作る作業も必要ありません。

オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の特性と改変

緑色蛍光タンパク質のもっとも重要な素晴らしい特徴として、その蛍光の生成と維持において、27キロダルトンの天然ペプチド構造しか必要でないということがあります。また、その蛍光分子本体が、隣りあうアミノ酸、つまり65番、66番、67番の位置にあるセリン、チロシン、グリシン残基(それぞれSer65、Tyr66、Gly67と呼ばれています。図2を参照)のトリプレットに由来しているという事実は注目に値します。この単純なアミノ酸モチーフは自然界に広く見られますが、ほとんどの場合、蛍光を発することはありません。蛍光タンパク質でユニークなのは、このペプチドトリプレットの配置が、筒状に折り込まれた11のβシートで構成されるきわめて安定的なバレル構造の中心にあるということです。

緑色蛍光タンパク質の中心にある疎水性の環境内で、Ser65のカルボキシル炭素とGly67のアミノ窒素の間で反応が起こり、イミダゾリン-5-一複素環窒素環系(図2を参照)が生成します。さらに酸化が進むと、Tyr66とイミダゾリン環の結合が起こり、蛍光種が形成されます。この2つの状態に天然の緑色蛍光タンパク質蛍光分子が存在するということは、注目しておく必要があります。プロトン付加構造が優勢な状態ですが、この状態では395ナノメートルで励起が最大になり、優勢でない状態、つまりプロトンが付加していない構造では、約475ナノメートルで吸収します。ただし、励起の波長にかかわらず、蛍光の放出は507ナノメートルで最大ピーク波長をとります。ただし、ピークは広くなっており、定まっていません。

図2 - 緑色蛍光タンパク質蛍光分子の発色団形成

蛍光タンパク質蛍光分子には、2つの重要な特徴があり、その特徴が、そのプローブとしての利用価値において重要な意味を持ちます。1つ目の特徴として、緑色蛍光タンパク質の蛍光色素としての光物理的特性がきわめて複雑であることから、その分子がかなりの量の改変に対応できる余裕があるということがあります。多くの研究では、広範な分子プローブを提供できるようにするために、天然緑色蛍光タンパク質の蛍光を微調整することに注目が集まっていますが、このタンパク質を、さらに進んだ蛍光色素を構築するための出発物質として採用することの方がもっと重要で、さらに大きな潜在性を秘めているのですが、こちらについてはあまり理解されていません。緑色蛍光タンパク質の2番目の重要な特徴は、蛍光が、トリペプチドの蛍光分子を取り巻く分子構造に大きく依存しているということです。

緑色蛍光タンパク質が変成すると、予想通り蛍光が破壊され、トリペプチドの蛍光分子を取り巻く残基の変異によって、蛍光特性が劇的に変化することもあります。βバレル内にあるアミノ酸残基のパッキングはきわめて安定で、そのために蛍光の量子収率が非常に高くなっています(最大80%)。このような緊密なタンパク質構造のために、pHと温度の変動や、尿素などの変性剤が原因の蛍光の変化に対して抵抗力が生じます。高いレベルの安定性は、緑色蛍光タンパク質が変異して蛍光が減少する場合、一般的にマイナス方向に変化し、量子収率が低下して、環境に対する感受性も増加します。このような問題のいくつかはさらに変異が進むことで克服されることもありますが、誘導体の蛍光タンパク質は一般的に、自然種よりも環境に対する感受性が高くなります。このような制約については、遺伝的バリアントを使用した実験について検討する場合、真剣に考える必要があります。

蛍光タンパク質を哺乳類系で使用するよう調節するために、野生型の緑色蛍光タンパク質に対していくつかの基本的な改変が施されており、現在、広く使用されているすべてのバリアントでその改変方法が判明しています。最初の手順は、蛍光の発色団形成を摂氏37度の環境になるよう最適化することでした。野生型の蛍光の発色団形成は、28度できわめて効率的になりますが、37度まで温度を上げると、全体的な発色団形成が大幅に低下し、蛍光が減少します。ただし、64番の位置にあるフェニルアラニン残基(Phe64)がロイシンに変異すると、37度での蛍光の発色団形成が改善し、28度での状況と同等以上になります。この変異は、オワンクラゲ由来のほとんどの一般的な蛍光タンパク質で発生しますが、他のバリアントが見つかっているのに伴い、37度でのフォールディングを改善する唯一の変異ではなくなっています。

37度での発色団形成の改善に加え、哺乳類の発現におけるコドンの使用の最適化により、哺乳類細胞で発現される緑色蛍光タンパク質の全体的な明るさも改善しています。全部で190を越す非表現突然変異がコーディング領域に導入され、ヒトの組織での発現を強化する結果になっています。2番目のアミノ酸としてバリンを挿入することによって、(A/GCCATというヌクレオチド配列を含む)コザック翻訳開始部位も導入されました。これらは、(以下で紹介する)他のさまざまな改善とあわせて、哺乳類細胞のライブセルイメージングにおける非常に便利なプローブになっており、それは、現在使用されている、クラゲタンパク質由来の蛍光プローブのすべてで共通しています。

蛍光タンパク質のカラーパレット

広範囲の蛍光タンパク質の遺伝的バリアントが開発されており、可視波長帯域のほぼ全域をカバーした蛍光放出波長プロファイルに対応しています(表1を参照)。オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質における変異導入の努力の結果、青から黄色まで広がる新しい蛍光プローブが生成されており、これらは、生物学研究において、in vivoでもっとも広く使用されているレポーター分子になっています。橙色および赤の波長領域で発光する長い波長の蛍光タンパク質も、イソギンチャクのディスコソマ・ストリアタや、花虫綱に属するサンゴから開発されています。青緑色、緑色、黄色、橙色、深赤色の蛍光を放出する同様のタンパク質を生成するために、他の種についても探索が続けられています。蛍光タンパク質の明るさと安定性を改善し、総体的な実用性を改善するために、現在、開発研究の努力が進んでいます。

表1 - 蛍光タンパク質の特性

Protein
(Acronym)
Excitation
Maximum
(nm)
Emission
Maximum
(nm)
Molar
Extinction
Coefficient
Quantum
Yield
in vivo
Structure
Relative
Brightness
(% of EGFP)
GFP (wt)395/47550921,0000.77Monomer*48
Green Fluorescent Proteins
EGFP48450756,0000.60Monomer*100
Emerald48750957,5000.68Monomer*116
Superfolder GFP48551083,3000.65Monomer*160
Azami Green49250555,0000.74Monomer121
mWasabi49350970,0000.80Monomer167
TagGFP48250558,2000.59Monomer*110
TurboGFP48250270,0000.53Dimer102
AcGFP48050550,0000.55Monomer*82
ZsGreen49350543,0000.91Tetramer117
T-Sapphire39951144,0000.60Monomer*79
Blue Fluorescent Proteins
EBFP38344529,0000.31Monomer*27
EBFP238344832,0000.56Monomer*53
Azurite38445026,2000.55Monomer*43
mTagBFP39945652,0000.63Monomer98
Cyan Fluorescent Proteins
ECFP43947632,5000.40Monomer*39
mECFP43347532,5000.40Monomer39
Cerulean43347543,0000.62Monomer*79
mTurquoise43447430,0000.84Monomer*75
CyPet43547735,0000.51Monomer*53
AmCyan145848944,0000.24Tetramer31
Midori-Ishi Cyan47249527,3000.90Dimer73
TagCFP45848037,0000.57Monomer63
mTFP1 (Teal)46249264,0000.85Monomer162
Yellow Fluorescent Proteins
EYFP51452783,4000.61Monomer*151
Topaz51452794,5000.60Monomer*169
Venus51552892,2000.57Monomer*156
mCitrine51652977,0000.76Monomer174
YPet517530104,0000.77Monomer*238
TagYFP50852464,0000.60Monomer118
PhiYFP525537124,0000.39Monomer*144
ZsYellow152953920,2000.42Tetramer25
mBanana5405536,0000.7Monomer13
Orange Fluorescent Proteins
Kusabira Orange54855951,6000.60Monomer92
Kusabira Orange255156563,8000.62Monomer118
mOrange54856271,0000.69Monomer146
mOrange254956558,0000.60Monomer104
dTomato55458169,0000.69Dimer142
dTomato-Tandem554581138,0000.69Monomer283
TagRFP555584100,0000.48Monomer142
TagRFP-T55558481,0000.41Monomer99
DsRed55858375,0000.79Tetramer176
DsRed256358243,8000.55Tetramer72
DsRed-Express (T1)55558438,0000.51Tetramer58
DsRed-Monomer55658635,0000.10Monomer10
mTangerine56858538,0000.30Monomer34
Red Fluorescent Proteins
mRuby558605112,0000.35Monomer117
mApple56859275,0000.49Monomer109
mStrawberry57459690,0000.29Monomer78
AsRed257659256,2000.05Tetramer8
mRFP158460750,0000.25Monomer37
JRed58461044,0000.20Dimer26
mCherry58761072,0000.22Monomer47
HcRed158861820,0000.015Dimer1
mRaspberry59862586,0000.15Monomer38
dKeima-Tandem44062028,8000.24Monomer21
HcRed-Tandem590637160,0000.04Monomer19
mPlum59064941,0000.10Monomer12
AQ14359565590,0000.04Tetramer11
* Weak Dimer

表1で示しているのは、もっとも一般的で、よく利用されている蛍光タンパク質バリアントに対する特性を編集したものです。この表では、それぞれの蛍光タンパク質の一般名および頭字語、ピーク吸収波長とピーク放出波長(ナノメートル単位)、モル吸光係数、量子収率、相対輝度、in vivoの構造的結合をリストしています。計算上の輝度の値は、モル吸光係数と量子収率の積をEGFPの値で割って算出されています。このリストは、科学的な文献および市販の文献を基にして作成したもので、包括的なリストではありません。文献でかなりの注目を集めている蛍光タンパク質誘導体を示したもので、研究の際に価値が出てくる可能性のあるものです。さらに、表で示し、以下で図示した吸収および蛍光放出波長は、管理された条件下で記録され、比較のために正規化されたもので、あくまで例示の目的のみで示しています。実際の蛍光顕微鏡を使用した研究では、pH、イオン濃度、溶媒極性などの環境条件の他、局所的なプローブ濃度の変化の影響によって、波長プロファイルおよび極大波長が変動する可能性があります。そのため、リストしている吸光係数および量子収率は、実際に実験条件で観察される値と異なる可能性があります。

緑色蛍光タンパク質

天然の緑色蛍光タンパク質では、強い蛍光が生み出され、しかもきわめて安定的ですが、最大励起が紫外線領域に近いという難点があります。紫外線光については、特殊な光学的配慮が必要であり、生細胞に損傷を与える可能性もあるため、一般的には、光学顕微鏡法によるライブセルイメージングに適していません。幸いなことに、緑色蛍光タンパク質の最大励起は、65番の位置にあるセリンをトレオニン残基(S65T)に改変する点突然変異を導入することによって、容易に488ナノメートル(青緑領域)にシフトさせられます。この変異は、改良型GFP(EGFP)という名前を持つ、緑色蛍光タンパク質のもっとも一般的なバリアントで行われています。なおこのEGFPは、蛍光タンパク質テクノロジーのトップ企業、BD Biosciences Clontechが提供する広範囲のベクターとして市販されています。さらに、改良型バージョンは、広く市販されているフルオレセイン用のフィルターセットを使用してイメージングすることができ、現在利用可能な蛍光タンパク質の中でもっとも明るいものの1つになっています。このような特徴によって、改良型緑色蛍光タンパク質は、もっとも人気のあるプローブになり、ほとんどの単一標識の蛍光タンパク質実験でベストチョイスになっています。EGFPの唯一の欠点は、pHに対する感度が小さく、二量体化する傾向が小さいことです。

ライブセルイメージングでは、改良型緑色蛍光タンパク質以外にも、他のバリアントがいくつか使用されています。光安定性と輝度という点でもっとも優れているのはEmeraldバリアントですが、販売元がないことから、その使用が限定されています。いくつかの販売元が、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の実験において明確なメリットを持つ、ヒト化緑色蛍光タンパク質バリアントを提供しています。64番の位置にあるフェニルアラニン残基をロイシンと置換(F64L、GFP2)することにより、400ナノメートルの励起ピークを維持し、改良型黄色蛍光タンパク質の効果的なパートナーとして組み合わせて使用できる変種が生成します。S65C変異のバリアント(通常、システインをセリンと置換)は、474ナノメートルのピーク励起を持つもので、改良型青色蛍光タンパク質のFRETパートナーとしては、赤にシフトしている改良型緑色バージョンよりも適しており、現在市販されています。最後に紹介するのは、ZsGreen1というサンゴタンパク質で、このタンパク質には505ナノメートルに放出ピークがあり、これが改良型緑色蛍光タンパク質の代わりになるものとして採用されています。ZsGreen1は、哺乳類細胞で発現するときEGFPよりもかなり明るくなりますが、融合変種を生成する上では利用法に制約があり、他のサンゴタンパク質同様、四量体を形成する傾向があります。

黄色蛍光タンパク質

黄色蛍光タンパク質のファミリーは、緑色蛍光タンパク質の結晶構造によって、トレオニン残基203(Thr203)が発色団に近いということがわかった後、開発が始まりました。この残基をチロシンに変異させることで、発色団の励起状態の双極子モーメントが安定するようになり、結果的に、励起波長と放出波長の両方で、長い波長の方に20ナノメートルシフトすることになりました。さらに改良が重ねられた結果、もっとも明るくもっとも広範に使用されている蛍光タンパク質の1つである改良型黄色蛍光タンパク質(EYFP)が生み出されることになりました。改良型黄色蛍光タンパク質には、このように優れた輝度と蛍光放出波長が伴っていることから、このプローブは、蛍光顕微鏡法でマルチカラーイメージングの実験を行う際のもっとも素晴らしい選択肢になりました。また改良型黄色蛍光タンパク質は、改良型青緑色蛍光タンパク質(ECFP)やGFP2と組み合わせると、エネルギー移動実験でも活用することができます。ただし黄色蛍光タンパク質にも、酸性pHに非常に弱いという問題があり、pH 6.5のときには蛍光が約50%減少します。EYFPはまた塩化物イオンにも弱い上、緑色蛍光タンパク質よりもかなり早く褪色が発生します。

図3 - 一般的な蛍光タンパク質の波長プロファイル

黄色放出の蛍光タンパク質構成の開発が継続的に続けられたことによって、黄色プローブのいくつかの問題が解決されました。黄色蛍光タンパク質の淡黄色バリアントは、EYFPよりもかなり明るく、褪色や酸性pHなどの環境効果に対する耐性も大きいことがわかっています。Venusという名前の別の誘導体は、発色団形成が最速であると同時に、これまで開発されてきた中でもっとも明るい黄色バリアントです。サンゴタンパク質、ZsYellow1は、元々、インド洋および太平洋に棲息するスナギンチャク種からクローンされたもので、真黄色の放出を生成し、マルチカラー用途に最適です。ZsGreen1と同様、この誘導体も、融合の生成についてはEYFPほど有用ではなく、四量体を形成する傾向があります。より堅牢な黄色蛍光タンパク質バリアントの多くは、FRETの研究で定量的な結果を求める上で重要であり、他の調査でも有用になる可能性が高くなっています。

図3で示しているのは、市販され、一般的に使用されている多くの蛍光タンパク質に対する、吸収および放出の波長プロファイルで、青緑色から遠赤色まで可視光線全域に渡っています。オワンクラゲ由来のバリアントは、改良型青緑色、緑色、黄色の各蛍光タンパク質を含み、425〜525ナノメートルの間でピーク放出波長を示しています。サンゴ由来の蛍光タンパク質、DsRed2、HcRed1(以下で説明)は、もっと長い波長を放出しますが、哺乳類細胞では、オリゴマー化によるアーチファクトが発生します。

青色および青緑色蛍光タンパク質

緑色蛍光タンパク質の青色および青緑色バリアントは、天然の蛍光分子の66番の位置にあるチロシン残基(Tyr66)を直接改変して生成したものです(図2を参照)。このアミノ酸をヒスチジンに転換すると、青が450ナノメートルの極大波長で放出されるようになり、トリプタミンに転換すると、480ナノメートル付近で主要な蛍光ピークを持って、500ナノメートル付近に肩ピークを持つようになります。どちらのプローブも弱い蛍光しかなく、フォールディング効率と全体的な輝度を向上させるために、二次的な変異が必要になります。この蛍光タンパク質のクラスの改良型バージョン(EBFPおよびECFP)は、改変を施しても、その輝度は、改良型緑色蛍光タンパク質の25〜40%程度しかありません。さらに、青色および青緑色蛍光タンパク質の場合、一般的に使用されていない波長領域で励起がもっとも効率的になるため、専用のフィルターセットとレーザー光源が必要になります。

青色および青緑色蛍光タンパク質にはこのような欠点があるにもかかわらず、マルチカラー標識およびFRETには広く関心が集まっており、さまざまな研究で広く利用されるようになっています。これは特に、改良型青緑色蛍光タンパク質に当てはまり、このタンパク質は(457ナノメートルの波長を使用した)アルゴンイオンレーザーによってオフピークで励起することができ、褪色に対する耐性も青色誘導体よりかなり高くなっています。他の蛍光タンパク質とは対照的に、可視光波長帯域の青色領域において優れたプローブを設計することに対して、関心が非常に高まっており、このクラスの蛍光分子に関する開発研究の大部分は、青緑色バリアントに集中しています。

図4 - 蛍光タンパク質FRET Pailバリアントの波長プロファイル

発表されている改良型青緑色蛍光タンパク質のうち、AmCyan1と、Ceruleanという改良型青緑色バリアントがもっとも有望です。AmCyan1蛍光タンパク質バリアントは、サンゴ、アネモニア・マジャノに由来するもので、哺乳類での発現の際に、改良型青緑色蛍光タンパク質よりも高い相対輝度と褪色抵抗を発揮するよう、ヒトコドンで最適化されています。問題点としては、他のほとんどのサンゴタンパク質と同じように、このプローブにも、四量体を形成する傾向があります。Cerulean蛍光プローブは、改良型青緑色蛍光タンパク質の部位特異的変異導入によって開発されたもので、高い吸光係数と優れた量子収率を実現しました。Ceruleanは、改良型青緑色蛍光タンパク質よりも少なくとも2倍明るくなっており、FRETの研究で、Venus(図4を参照)などの黄色放出蛍光タンパク質と組み合わせて使用することで、非常に高いS/N比を実現できています。

赤色蛍光タンパク質

蛍光タンパク質開発の主要な目標は、改良型緑色蛍光タンパク質の高度な特性に匹敵する、あるいは凌駕するような赤色放出誘導体を構築することでした。ふさわしい赤色蛍光タンパク質を使用することの利点として、既存の共焦点広視野顕微鏡(およびそのフィルターセット)との間に互換性があることに加え、生体全体が赤色光に対してはるかに透過性が高いために、イメージング性能が向上することなどが挙げられます。オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質から、黄色波長領域を越えて赤までシフトした変種を構築することは、大部分不成功に終わっており、研究者は、その研究対象を熱帯サンゴに向けました。

広く利用されている最初のサンゴ由来の蛍光タンパク質は、ディスコソマ・ストリアタ由来のもので、一般的にDsRedと呼ばれています。いったん完全に発色団形成を行うと、DsRedの蛍光放出波長は、583ナノメートルでピークになり、励起波長は、558ナノメートルで主要ピーク、500ナノメートル付近で小ピークが発生します。ただし、DsRedの使用については、いくつか問題があります。DsRed蛍光の発色団形成はスピードが遅く、蛍光放出が緑色の領域になっているときに進みます。このアーチファクトはグリーンステートと呼ばれ、他の緑色蛍光タンパク質を使用して複数の標識を付けた実験において、波長域のオーバーラップのために、問題が発生することがわかっています。さらに、DsRedは恒常的な四量体であり、生細胞に大きなタンパク質凝集を生成することがあります。このような特徴は、DsRedを遺伝子発現のレポーターとして使用する上ではあまり問題になりませんが、DsRedをエピトープタグとして使用する場合は、その利用価値が大幅に低下します。数百ものタンパク質にタグを付けるために使用されてきた、クラゲ由来の蛍光タンパク質とは対照的に、DsRed複合体は、はるかに成功例が少なく、場合によっては有毒になることもあります。

DsRed蛍光タンパク質の問題のいくつかについては、変異導入によって克服されています。DsRed2として知られている第2世代のDsRedには、ペプチドアミノ末端にいくつか変異があり、これがタンパク質凝集を阻害し、同時に毒性も低下させています。さらに、この改変によって、蛍光分子の発色団形成時間も短縮されています。DsRed2タンパク質は依然として四量体を形成しますが、発色団形成が速くなったことで、複数標識実験における緑色蛍光タンパク質との互換性は高まっています。第3世代のDsRed変種では、発色団形成時間がさらに短縮され、しかもピーク細胞蛍光の点で輝度レベルも向上します。DsRed-Expressからの赤色蛍光放出は、発現してから1時間以内に観察されます。これは、DsRed2の約6時間、DsRedの約11時間と比較すると大変な進歩です。RedStarという酵母菌最適化バリアントも開発されており、このバリアントでは、発色団形成速度が改善され、輝度も向上しています。DsRed-ExpressおよびRedStarでは、グリーンステートの存在もあまり目立たないため、結果的に、これらの蛍光タンパク質が、複数標識実験における朱色波長領域のベストチョイスになっています。なお、これらのプローブは恒常的な四量体のままであるため、タンパク質の標識においてはベストチョイスではありません。

図5 - 橙色および赤色単量体蛍光タンパク質の波長プロファイル

非常に有望な他の赤色蛍光タンパク質が、珊瑚虫からいくつか分離されています。最初に哺乳類の用途に合わせて適合させたものはHcRed1で、これは元々シライトイソギンチャクから分離されたもので、現在市販されています。HcRed1は元々、非蛍光色素タンパク質由来のものですが、このタンパク質が、変異導入によって赤色を吸収するようになり、588ナノメートルでもっとも吸収し、618ナノメートルでもっとも放出する、弱い蛍光性を持つ恒常的な二量体を生成します。このタンパク質の蛍光放出波長は、DsRedからの離脱に適していますが、DsRedと共凝集する傾向にあり、はるかに暗いという難点があります。そのため、2つの分子が横並び(タンデム)で含まれている興味深いHcRed構造が生み出され、原理上タンデムペア内で発生する二量体を克服し単量体タグを作るようになりました。ただし、この二重タンパク質の輝度の総量はいまだに改善していないため、ライブセル顕微鏡観察で日常的な業務に使用するという用途にはあまり適していません。

単量体蛍光タンパク質バリアントの開発

自然状態では、ほとんどの蛍光タンパク質は、二量体か四量体、あるいはさらに高い次数のオリゴマーとして存在しています。同様に、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質は、イクオリンを持つ四量体複合体と考えられていますが、この現象は、非常に高いタンパク質濃度でなければ観察されず、クラゲ由来の蛍光タンパク質が二量体になる傾向は一般的に非常に小さいと考えられます(解離定数が100マイクロモル以上)。そのため蛍光タンパク質の二量体は一般的に、哺乳類組織で発現するときには観察されていません。ただし、蛍光タンパク質が、細胞膜などの特定の細胞内コンパートメントをターゲットにしている場合は、局所的なタンパク質濃度が、理論的には、二量体の生成を可能にするほど高くなります。これは、FRETの実験を行うときに特に懸念材料になります。FRETの実験の場合、複雑なデータセットが生成されながら、それが二量体アーチファクトによって阻害されてしまう可能性があるためです。

単量体DsRedバリアントの構築は、困難な仕事であることがわかっています。第1世代の単量体DsRedタンパク質(RFP1と呼ばれるもの)を作り出すために、この構造に対して30回以上のアミノ酸改変を行わなければなりませんでした。しかもこの誘導体では、天然タンパク質と比べ、蛍光放出が著しく減少している上、褪色も非常に速かったため、単量体の緑色および黄色蛍光タンパク質よりもはるかに有用性が低くなりました。自己会合する可能性が低く、放出極大が長い波長に移動するような、有効性の高いバイオプローブになる黄色、燈色、赤色、深赤色の蛍光タンパク質バリアントを探し出そうと、体細胞超変異などの新しい技法をはじめとする、変異導入の研究努力が目下進んでいるところです。

あらゆる基準で最適な単一のバリアントというものはまだ見つかっていませんが、吸光係数、量子収率、光安定性が高い、改良型の単量体蛍光タンパク質が現在開発されています。また、恒常的な四量体における赤色蛍光タンパク質の発現の問題も、生物学的機能との互換性が高い誘導体を生み出す単量体バリアントを生成する努力が進んでおり、徐々に克服されつつあります。

おそらく、この領域でもっとも素晴らしい発展は、Q66残基およびY67残基をターゲットにした部位特異的変異導入によって、単量体赤色蛍光タンパク質から創出した新しい蛍光タンパク質の発表でしょう。この単量体蛍光タンパク質の構造は、蛍光放出波長プロファイル(表1および図5を参照)に似た色を反映したフルーツの名前がつけられており、560〜610ナノメートルの波長で極大値を持っています。反復的な体細胞超変異によって、このクラスをさらに拡大することで、最大650ナノメートルの放出波長を持つ蛍光タンパク質が生み出されました。この新しいタンパク質は、赤にシフトしたクラゲ由来のほとんどの蛍光タンパク質(Venusなど)と、サンゴ由来の赤色蛍光タンパク質の間に生じているギャップを、原則的に埋めています。これらの新しい蛍光タンパク質は、多くのイメージング実験で必要な輝度や安定性に欠けていますが、これが存在しているという事実は、可視光線波長全体で、輝度が高く安定的な単量体蛍光タンパク質がもたらされる可能性を示唆していることから、将来に明るい見通しをもたらしています。

蛍光試薬

蛍光タンパク質研究におけるもっとも興味深い開発に、外部的な光子刺激または時間経過に応じて色や放出強度が変わる、分子または蛍光試薬(表2を参照)として、これらのプローブを利用することがあります。たとえば、天然のクラゲ由来のペプチドの単一点突然変異によって、400ナノメートルの範囲の光を照射することで励起ピークを紫外線から青色に光変換できるような、緑色蛍光タンパク質の光活性化バージョン(PA-GFPと呼ばれるもの)が作られます。変換する前のPA-GFPには、野生型のタンパク質と似たプロファイルの励起ピークがあります(約395〜400ナノメートル)が、光変換を行うと、488ナノメートルの励起ピークが約100倍になります。これによって、変換前と変換後のPA-GFPプールの間に、非常に高いコントラスト差が生み出されるため、細胞内の分子亜集団のダイナミクスを追跡する上で非常に有用です。図6(a)で示しているのは、トランスフェクトした哺乳類生細胞の細胞質にPA-GFPを導入し、488ナノメートルのアルゴンイオンレーザーを励起して撮影したもので、405ナノメートルの青色ダイオードレーザーで光変換する前(図6(a))と光変換した後(図6(d))の状態を示しています。

表2 - 代表的な蛍光試薬の特性

Protein
(Acronym)
Excitation
Maximum
(nm)
Emission
Maximum
(nm)
Molar
Extinction
Coefficient
Quantum
Yield
in vivo
Structure
Relative
Brightness
(% of EGFP)
PA-GFP (G)50451717,4000.79Monomer41
PS-CFP (C)40246834,0000.16Monomer16
PS-CFP (G)49051127,0000.19Monomer15
PA-mRFP1 (R)57860510,0000.08Monomer3
CoralHue Kaede (G)50851898,8000.88Tetramer259
CoralHue Kaede (R)57258060,4000.33Tetramer59
wtKikGR (G)50751753,7000.70Tetramer112
wtKikGR (R)58359335,1000.65Tetramer68
mKikGR (G)50551549,0000.69Monomer101
mKikGR (R)58059128,0000.63Monomer53
dEosFP-Tandem (G)50651684,0000.66Monomer165
dEosFP-Tandem (R)56958133,0000.60Monomer59
mEos2FP (G)50651956,0000.84Monomer140
mEos2FP (R)57358446,0000.66Monomer90
Dendra2 (G)49050745,0000.50Monomer67
Dendra2 (R)55357335,0000.55Monomer57
CoralHue Dronpa (G)50351895,0000.85Monomer240
Kindling (KFP1)58060059,0000.07Tetramer12

その他の蛍光タンパク質も蛍光試薬として採用することができます。DsRed蛍光タンパク質の三光子励起(760ナノメートル以下)では、通常では赤色の蛍光を緑色に変換することができます。この効果は、DsRedの赤の発色団で選択的褪色が起こることから、グリーンステートが可視蛍光に変わるためと考えられます。DsRedのTimerバリアントでは、数時間経過するうちに、鮮緑色(500ナノメートルの放出)から鮮紅色(580ナノメートルの放出)に色が少しずつ変わっていきます。そのため、この緑色蛍光と赤色蛍光との相対比率を、遺伝子発現研究で時間データを集める目的で使用することができます。

緑色蛍光タンパク質バリアントの変異導入によって生成する、PS-CFPという名前のフォトスイッチャブル蛍光試薬では、405ナノメートルの照明を当てると、青緑色蛍光から緑色蛍光に遷移することが見て取れます(図6(b)および6(e)の中心の細胞の光変換に注目)。このプローブは、単量体として発現するもので、褪色、光変換、光活性化の研究で使用すると有用と考えられます。ただし、PS-CFPによる蛍光は、PA-GFPより約2.5倍暗く、光変換効率という点でも他の蛍光試薬より劣っています(光変換により発生する蛍光放出の40ナノメートルのシフトは、同様のプローブで観察されるものよりも少なくなります)。この蛍光タンパク質または関連する蛍光タンパク質をさらに変異導入すると、この波長領域でも利用価値が高くなるバリアントが生み出される可能性もあります。

図6 - 蛍光試薬の蛍光タンパク質

蛍光試薬は、サンゴ種およびイソギンチャク種からクローンした蛍光タンパク質でも開発されています。イシサンゴから分離した蛍光タンパク質、Kaedeは、紫外線を当てると緑色から赤色に光変換します。PA-GFPと異なり、Kaedeの光変換は、その照射とは異なる波長の光の吸収によって発生します。残念ながら、このタンパク質は恒常的な四量体であるため、エピトープタグとして使用するには、PA-GFPほど適していません。EosFP(表2を参照)という、イシサンゴ(オハナガタサンゴ)由来の四量体蛍光タンパク質バリアントは、約390ナノメートルの紫外線を当てると、オレンジ色に変わる明るい緑色の蛍光を放出します。この場合、発色団に隣接するペプチドバックボーンの破壊を含む、光由来の改変によって、波長シフトが生み出されます。また、「野生型」のEosFPタンパク質をさらに変異導入することによって、融合タンパク質の構築に利用可能な単量体誘導体が生み出されています。

3番目のオワンクラゲ由来でない蛍光試薬、Kindling蛍光タンパク質(KFP1)は、スネークロックアネモネから分離された非蛍光色素タンパク質で、現在市販されています(Evrogen)。Kindling蛍光タンパク質は、緑色の光で照射しない限り放出しません。低強度の光を当てると、数分で減衰してしまう一過的な赤色蛍光が発生します(図6(c)のミトコンドリアを参照)。青色を照射すると、発光している蛍光がすぐに消えるため、蛍光標識を厳密に制御することができます。対照的に、強強度で照射すると不可逆的な発光が現れ、PA-GFPに似た安定的なハイライトが可能になります(図6(f))。蛍光を正確に制御できる特性は、混み合った環境で粒子の移動を追跡する場合に特に有用です。このアプローチは、たとえば、アフリカツメガエルの胚を発生させるときの神経板細胞の運命や、PC12細胞で個別のミトコンドリアの移動を追跡するときに使用され、良い結果をもたらしています。

蛍光試薬の開発が継続していくと、光マーキングで有用性が高い蛍光タンパク質は徐々に、光変換が容易で、広範囲の放出色を示すことができる、より明るい単量体バリアントの方向に進化することが考えられます。このような進歩に伴って、蛍光観察のための照明モードと局所マーキングをスムーズに統合する機能が顕微鏡に搭載されることが、細胞生物学の研究室で常識になることが予想されます。最終的には、このような革新によって、シグナル伝達系の空間的および時間的なダイナミクスにおいて、大幅な進展が見られる可能性が生じています。

蛍光タンパク質ベクターおよび遺伝子導入

蛍光タンパク質はきわめて用途が広く、微生物学から体系生理学に至るまで、ほとんどすべての生物学的な活動において採用され、良好な結果を出しています。このようなユビキタスプローブは、生体だけでなく、培養細胞および培養組織での遺伝子発現のレポーターとして、きわめて有用です。ライブセルにおいては、蛍光タンパク質は、タンパク質、細胞小器官、その他の細胞内コンパートメントなどの局在とダイナミクスを追跡する目的でもっとも一般的に採用されています。蛍光タンパク質融合産物を構築する目的、哺乳類やその他の系での発現を強化する目的で、さまざまな技法が開発されてきています。蛍光タンパク質のキメラ遺伝子配列を細胞内に導入するための主要な手段は、遺伝子操作した細菌性プラスミドとウイルスベクターです。

蛍光タンパク質の遺伝子融合産物は、適切なベクター(通常はプラスミドまたはウイルス)を使用することによって、哺乳類などの細胞に、一過的または安定的に導入することができます。一過的つまり一時的な遺伝子導入実験(しばしば一過性トランスフェクションと呼ばれます)では、宿主生物に導入したプラスミドまたはウイルスDNAを、必ずしも染色体に組み込む必要はありませんが、細胞質内で短時間しか発現することができません。遺伝子融合産物の発現の場合は、蛍光タンパク質に適したフィルターセットを使用して蛍光放出を観察することによって容易に調べることができますが、通常は、トランスフェクション後も数時間発生し、プラスミドDNAを哺乳類細胞に導入した後、72〜96時間持続します。多くの場合、プラスミドDNAは、永続的にゲノムに組み込んで、安定的に転換された細胞株にすることができます。一過的なトランスフェクションにするか、安定的なトランスフェクションにするかについては、研究の目的に応じて決めることになります。

図7 - EYFP小胞体局在化ベクター

蛍光タンパク質遺伝子導入実験で有用になる、基本的なプラスミドベクター構成には、必要な成分があります。このようなプラスミドには、細菌の複製起点と、DNAおよび薬剤耐性遺伝子に対するコーディングを持つ、原核生物のヌクレオチド配列が含まれていなければなりません。この因子は、シャトル配列と呼ばれることもありますが、これにより、細菌の宿主内においてプラスミドの増殖と選択が可能になり、哺乳類のトランスフェクションが可能になるほどの十分な量のベクターを生成することができます。さらに、このプラスミドには、メッセンジャーRNAの転写開始をコントロールする1つ以上の真核性の遺伝因子、哺乳類のポリアデニル化シグナル、イントロン(オプション)、哺乳類細胞の複数選択のための遺伝子などが含まれていなければなりません。哺乳類の宿主が、当該の遺伝子融合産物を発現するには転写因子が必要であり、選択遺伝子は通常、プラスミドを含む細胞に対する抵抗性を提供する抗生物質になります。これらの全般的な特徴はプラスミドの設計によって変動するものであり、多くのベクターは、特定の用途に合致した広範囲の成分を持っています。

図7で示しているのは、カルレティキュリン(常在型タンパク質)の配列をターゲットにして小胞体に融合した改良型黄色蛍光タンパク質に対するコーディング領域を含む、市販の(BD Biosciences Clontech製の)細菌性プラスミド誘導体の制限酵素および遺伝子の地図です。感受性の高い哺乳類細胞でこの遺伝子産物が発現すると、小胞体膜ネットワークに局在するEYFPを含むキメラペプチドが産出されます。なおこれは、この細胞小器官の蛍光標識のために特別に設計されたものです。宿主ベクターは、細菌の複製起点を含む、pUCの高コピー数(約500)プラスミドの誘導体であり、特化した大腸菌株の複製に適しています。カナマイシン抗生物質遺伝子は、細菌内ですぐに発現し、抵抗性を提供して選択マーカーとして機能します。

上記で紹介したEYFPベクターのその他の特徴として、トランスフェクトした、人や哺乳類の細胞株での遺伝子発現を推進するヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターになるというものや、一本鎖DNA合成のためのf1バクテリオファージの複製起点になるというものがあります。ベクターバックボーンにも同様のウイルス40(SV40)の複製起点が含まれており、それが、SV40のT抗原を発現する哺乳類細胞で活性化します。SV40初期プロモーター、ネオマイシン耐性遺伝子(アミノグリコシド 3'-ホスホトランスフェラーゼ)、メッセンジャーの安定性のための単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)のポリアデニル化シグナルで構成されるネオマイシン耐性カセットにより、抗生物質G418での安定的なトランスフェクタントの選択が可能になります。プラズマバックボーンには、6つの特有の制限酵素部位(図7を参照)が存在しており、そのために、このプラスミドの多才さが一層増しています。

蛍光タンパク質プラスミドの増殖、分離、トランスフェクション

哺乳類のトランスフェクション実験が成功するかどうかは、菌体内毒素が比較的少ない、高品質のプラスミドベクターまたはウイルスDNAベクターを使用できるかどうかにかかっています。自然状態では、環状プラスミドDNA分子は、それ自身の周辺を二重らせんが数回ねじれるという三次元スーパーコイル構造を持っています。長年の間、スーパーコイルプラスミドおよびウイルスDNA精製の方法は、挿入剤(臭化エチジウムまたはヨウ化プロピジウム)が存在する状況での塩化セシウム密度勾配遠心法のみでした。この技法は、機器と材料の両面で高価ですが、浮遊密度によって、スーパーコイル(プラスミド)DNAを線状の染色体および損傷のある環状DNAから分離し、高純度のプラスミドDNAを集めることができます。近年では、面倒で時間がかかる遠心分離法に代わって、簡単なイオン交換カラムクロマトグラフィー方式(一般的にミニプレップと呼ばれます)が広く普及してきており、比較的短い時間で、菌体内毒素のない大量のプラスミドDNAが得られるようになっています。

プラスミドベクターの簡単で比較的安価な増殖を実現する、コンピテントセルと呼ばれる特殊な細菌変種が開発されています。この細菌には、特にプラスミドの複製に対して感度が高い変位のパレットが含まれており、転換と呼ばれる手順において、膜および細胞壁全体で、化学的にDNAを導入しやすい状態になっています。転換の後、プラズマによって指定されている抗生物質が存在する状況で、細菌が成長し対数増殖期に入ります。細菌培養は、遠心分離によって濃縮した後、汚染されたRNAを分解する酵素を含んだアルカリ洗浄剤で溶解させて、破壊します。その後、溶解物を濾過して、イオン交換カラムに入れます。RNA、DNA、タンパク質などを含む不要な物質はカラムから完全に洗い流した上で、高塩濃度緩衝液を使用して、プラスミドDNAを溶出させます。アルコール(イソプロパノール)沈殿に、溶出したプラスミドDNAが濃縮しており、これを遠心分離で集めて、洗い流し、緩衝液で再び溶解します。これにより高純度のプラスミドDNAが得られ、トランスフェクションの実験に利用できる状態になります。

図8 - 哺乳類細胞での脂質溶解トランスフェクション

トランスフェクションに使用する哺乳類細胞は、生理学的な条件が優れたものでなければならず、手順を実行する際は、対数増殖期で成長していなければなりません。培養細胞によるプラスミドDNAの取り込みを最適化するため、広範囲のトランスフェクション試薬が開発、販売されています。これらの技法は、単純なリン酸カルシウム沈殿から、細胞膜に融合して細胞質に内容物を届ける脂質ベシクルでのプラスミドDNAの分離(図8を参照)に至るまで、広範囲に渡っています。脂質を使用した技術は、集合的にリポフェクションと呼ばれており、人気のある多くの細胞株で有効性を発揮していることから、広範囲に受け入れられています。現在は、ほとんどのトランスフェクションの実験で選択される方法になっています。

一過的なトランスフェクションは、通常、比較的短い時間(数日間)でプラスミド遺伝子産物が失われますが、安定的にトランスフェクトした細胞株であれば、長期間(数カ月から数年)持続的にゲストタンパク質を精製し続けます。安定的な細胞株は、プラスミドバックボーン(図7を参照)に存在する抗生物質マーカーを使用して選択することができます。哺乳類の細胞株で安定的なトランスフェクタントを選択するためのもっとも一般的な抗生物質は、タンパク質合成阻害剤G418ですが、必要な量がそれぞれの細胞株ごとに大きく変動します。安定的な細胞を選択する用途で、遺伝子マーカーを持つような他の抗生物質も開発されており、ハイグロマイシンBとピューロマイシンが特に一般的です。安定的な細胞株を得るためのもっとも効果的な方法は、最初のトランスフェクションで効率の高い技法を採用することです。この点では、エレクトロポレーションが、線状にしたプラスミドや高純度の遺伝子で、安定的なトランスフェクタントを精製することがわかっています。エレクトロポレーションでは、細胞懸濁液に短い高電圧のパルスをかけ、細胞膜に孔をあけて、その後、トランスフェクションDNAが細胞に入るようにします。エレクトロポレーションでは、専用の機器が必要になりますが、この技法の場合、大量のトランスフェクションを実行するときはリポフェクション試薬と同等の費用しかかかりません。

蛍光タンパク質の将来

現在の蛍光タンパク質開発は、2つの目標に集中しています。1つ目の目標は、オワンクラゲ由来の青色から黄色の蛍光タンパク質の現在のパレットを充実させると同時に、微調整することで、2つ目の目標は、可視波長域の橙色から遠赤色の領域で発光する単量体蛍光タンパク質を開発することです。このような目標に向かっての進歩はきわめて印象的なもので、近赤外線蛍光タンパク質が登場することさえ、あり得ないことではなくなっています。

近年、クラゲ由来のバリアントが生成されたことにより、特に黄色および緑色の誘導体において、第1世代の蛍光タンパク質にあったほとんどの欠陥が解消されました。明るく発色団形成が速い単量体の赤色蛍光タンパク質が探索された結果、新しい興味深い蛍光タンパク質のクラス、特にサンゴ種由来のものがいくつか見つかりました。既存の蛍光タンパク質の開発に加え、自然界に存在しないアミノ酸の挿入などといった新しい技術が導入されることによって、カラーパレットがさらに拡大されることが考えられます。光学波長分離法が開発され広まっていくにつれて、こういった新しい多様性によって、特に波長の黄色領域と赤色領域において、既存のパレットを補っていくことになります。

蛍光プローブ技術の現在のトレンドは、遠赤色や近赤外線で蛍光を発する染料の役割を拡大することです。哺乳類細胞の場合、波長の赤端において、自家蛍光と光の吸収の両方が大幅に減少します。このため、厚みの大きい標本や生体全体の検査では、遠赤色蛍光プローブの開発がきわめて有用になります。遺伝子組み換え体系において、蛍光タンパク質のレポーターとしての成功を考えると、生体全体における遠赤色蛍光タンパク質は今後ますます重要さを増してくるでしょう。

最後に、バイオセンサー開発における蛍光タンパク質利用に大きな潜在性があることについては、まだ実現され始めた段階です。数々のバイオセンサーの構築が急速に進んでいるところです。これらのプローブの開発は、構造的な情報を利用することによって感度の向上をもたらしてきましたが、今後もそれは続くでしょう。このような努力が成功することによって、適切な蛍光タンパク質ベースのバイオセンサーを使用すれば、ほとんどの生物学的なパラメータが測定可能になるということを確かに示唆しています。

Contributing Authors

David W. Piston - Department of Molecular Physiology and Biophysics, Vanderbilt University, Nashville, Tennessee, 37232.

George H. Patterson and Jennifer Lippincott-Schwartz - Cell Biology and Metabolism Branch, National Institute of Child Health and Human Development, National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, 20892.

Nathan S. Claxton and Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.

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