偏光観察法

偏光法は、暗視野照明法や明視野照明法、微分干渉法、位相コントラスト法、ホフマン変調コントラスト法、蛍光法などの他の技法と比較すると、複屈折物質で取得した画像の品質が高くなるコントラスト強調技法です。偏光顕微鏡は高い感度を持ち、広範囲の異方的な標本を対象とする定量的研究と定性的研究の両方で活用することができます。定性的な偏光観察法は実際に広く使用されており、その分野に応じて数多くの事例があります。対照的に、偏光観察法の定量的な側面については、主に結晶学分野で採用されていますが、はるかに狭い分野になり、その対象は地質学者、鉱物学者、化学者のみに通常限定されます。ただし、過去数年間の堅実な進歩により、生物学者も、異方的な細胞内構造の複屈折特性の研究で活用できるようになりました。
図1 - 偏光顕微鏡の構造
偏光顕微鏡は、主にその光学的な異方特性のために見えるようになっている標本の観察や写真撮影を行うためのものです。この仕事を行うためには、顕微鏡に偏光子と検光子(2番目の偏光子、図1を参照)の両方を搭載しなければならず、偏光子は光路内の標本の前、検光子は光路内の対物レンズの後方絞りと鏡筒またはカメラポートの間に配置します。画像のコントラストは、平面偏光と複屈折(つまり二重屈折)標本の相互作用により、互いに垂直な平面でそれぞれ偏光する2つの個別の波成分を生成させることによって向上させます。これらの成分は、正常波面および異常波面と呼ばれますが(図1)、その速度は異なり、標本内の伝播方向に応じて変動します。光の成分は、標本を出た後、位相が不一致になりますが、検光子を通過するときは、建設的干渉と相殺的干渉によって再び合成されます。この概念を、架空の複屈折標本によって生成される波面として、図1で示しています。またこの図では、最新の偏光顕微鏡における、重要な光学部品および機械部品についてもあわせて示しています。
偏光観察法では、屈折率が異なる鉱物の吸収色とその間の光路境界に関する情報を、明視野照明法と同様の方法で提供することができます。ただしこの技法では、等方性および異方性を持つ物質を区別することもできます。さらにこのコントラスト強調技法では、異方性固有の光学特性を調べられる他、識別や診断の目的で、きわめて重要な物質の構造と組成に関する詳細な情報を提供することもできます。
等方性を持つ物質、たとえばさまざまなガス、液体、内部応力の無いガラス、立方晶などは、あらゆる方向で検査したとき同じ光学特性を示します。このような物質には、唯一の屈折率があり、それを通過する光の振動方向には制約がありません。対照的に、すべての固体物質の90%を含む、異方性を持つ物質の場合、結晶軸に対する入射光の方向に応じて光学特性が変動します。物質を通過する光の伝播方向と振動平面の座標に応じて、屈折率は広範囲に変動します。さらに重要なこととして、異方性を持つ物質が、ビームスプリッターとして機能し、光線を2つの直交成分に分けます(図1を参照)。分割された光線は同じ光路で再合成して、それによって異方性を持つ物質についての情報が引き出されることから、偏光観察技法では、分割したこれらの光線の干渉を利用します。
チュートリアル - 偏光における複屈折の結晶 (English)
円形のステージを360°回転すると、異方性を持つ複屈折の結晶が、光学顕微鏡の偏光によってどのように反応するかを調べることができます。
偏光観察法は、主に岩石の薄片内の鉱物の研究を行う地質学分野での用途が、おそらくもっともよく知られているでしょう。しかし、天然鉱物と工業用鉱物の両方、セメント複合材料、セラミック、鉱物繊維、高分子化合物、デンプン、木、尿素、さまざまな生体高分子や構造集合体など、その他の広範な物質についても、偏光法で簡単に試験することができます。この技法は、定性的研究と定量的研究の両方で成果を上げており、材料科学、地質学、化学、生物学、金属工学の他、医学においても優れたツールになっています。
図2 - コノスコープ干渉パターン
偏光観察法の分析技法については、他の顕微鏡観察法よりも理解が難しいかも知れませんが、明視野イメージングよりもはるかに多くの情報が得られるという理由だけでも、これについて追究する価値があります。偏光観察法の基本原理に対する理解は、微分干渉法(DIC)の効果的な説明にとっても必要不可欠になります。
偏光の基本的な特性
光の波モデルでは、すべての振動方向が同程度に起こりうる状態で、伝播の方向に対して垂直に振動する光波について説明しています。これは、「自然」または「非偏光」の白色光と呼ばれます。平面偏光の場合、1つの振動方向のみが存在します(図1)。肉眼-脳系統には光の振動方向に対する感受性がないため、平面偏光は、たとえば偏光サングラスを着けるとギラギラした光が減少するなど、強度または色の効果としてでしか検出できません。
偏光は一般的に、ダイクロイック媒質で、特定の振動方向を持つ光を吸収することによって生成されます。トルマリンなどの特定の天然鉱物がこのような特性を持っていますが、1932年にエドウィン H. ランド博士が合成フィルムを発明すると、平面偏光を生み出すための媒質としてそれまで使用されていた他の物質は、すぐにこれに取って代わられました。フィルムを製造する際は、硫酸ヨードキニンの小さい結晶を、同じ方向に配向して、結晶が動いたり位置が変わったりしないように透明なポリマーフィルムに埋め込みます。ランドは、偏光フィルムを含むシートを開発し、ポラロイド®という商標を付けて売り出しました。これがその後、このシートを示す一般名称として広く受け入れられるようになりました。自然の(非偏光)白色光から平面偏光を選択できる装置は、現在どれもポラライザーまたは偏光子と呼ばれていますが、この名前は1948年、A. F. ハリモンドによって最初につけられたものです。現在、偏光子は、液晶ディスプレイ(LCD)、サングラス、写真撮影、顕微鏡観察法の他、数多くの科学および医療用途で広く使用されています。
偏光顕微鏡では、偏光子および検光子という2種類の偏光フィルターがあります(図1を参照)。偏光子は、通常左から右、つまり東西方向に固定された振動方位角で標本ステージの下に配置されていますが、この素子のほとんどは360°回転できるようになっています。検光子は通常、南北方向の振動方向に配置され、こちらも一部の顕微鏡では回転できるようになっています。この検光子は、対物レンズの上に配置され、必要に応じて光路に入れたり出したりできるようになっています。検光子と偏光子の両方が光路に入っている場合、その振動方位角は互いに垂直になっています。この構成の場合、偏光子と検光子が交差しており、光が系に入らないため、接眼レンズでは暗視野になります。
入射光偏光観察法では、偏光子は垂直照明装置の中に配置され、検光子はハーフミラーの上に配置されます。ほとんどの回転可能な偏光子は、透過方位角の回転角度を示す目盛が付いており、検光子は通常所定の位置に固定されています(ただし、上級モデルでは90°または360°回転できるようになっています)。偏光子と検光子は、偏光顕微鏡では必要不可欠な部品ですが、他にも次のような機能が搭載されていることが望まれます。
- 専用ステージ - 360°回転の円形標本ステージ。対物レンズとステージの中心が顕微鏡の光学軸と一致し、回転の中心が視野の中心と一致した状態になっており、これによって、配向の研究が容易になります。偏光観察用に設計された多くのステージにはバーニヤ目盛もついており、0.1°の精度で回転角度を測定できるようになっています。コノスコープ画像の先進的な研究では、標本をあらゆる角度から観察できるようにするため、複数の回転軸を持つユニバーサルステージを採用することもできます
- 歪みのない対物レンズ - 組立時に対物レンズのガラスに応力がかかると、偏光において、性能の低下に繋がる因子である、不要な成分が発生することがあります。偏光観察用に設計された対物レンズは、「P」、「PO」、「Pol」などの文字がレンズ本体外観に刻印されており、これによって通常の対物レンズと区別されています。対物レンズの性能は、レンズ表面に使用されている反射防止コーティングや、前面レンズへの入射光の角度による屈折特性など、いくつかの要因によって制約を受けます。また、レンズ群の単レンズの間のセメント接合や、単独のレンズまたはレンズ群をフレームにきつく取り付けたせいで、レンズの歪みが加わることもあります。
- 心出し可能な回転式レボルバー- 対物レンズの光学軸の位置は組立のたびに変動するため、偏光顕微鏡には、対物レンズごとに心出しするメカニズムを持つ専用のレボルバーが装備されています。これにより、それぞれの対物レンズについて、ステージや顕微鏡の光学軸との間で中心を揃えられるようになるため、ステージを360°回転させても標本が視野の中心に来るようになります。
- 歪みのないコンデンサー - 偏光観察用に設計されたコンデンサーには、歪みのないレンズを使うなど、共通の特徴がいくつかあります。コンデンサーには、偏光子の保持具が装備されているものや、開口絞りの下でコンデンサーに偏光素子が直接取り付けられているものもあります。多くの偏光コンデンサーでは、低倍率観察や複屈折観察の際にほぼ平行な照明波面を生成するため、光路から取り外すことができるトップレンズが付いています(ハネノケコンデンサー)。
- 接眼レンズ - 偏光顕微鏡の接眼レンズには、視野の中心を示す十字線(またはレチクル)が付いています。多くの場合、この十字線は顕微鏡写真用レチクルに取り換えて使用します。これによって、視野領域の境界を構成するフレームセット付きでデジタルまたはフィルムで画像を撮影するため、標本のフォーカシングやイメージの生成が容易になります。偏光子と検光子に対する接眼レンズの回転方向は、鏡筒スリーブにスライドさせる固定ピンによって確保されます。
- ベルトランレンズ - 中間鏡筒または鏡筒内に取り付ける専用のレンズです。ベルトランレンズは、対物レンズの後ろ側焦点面付近で形成された干渉パターンを投影して、顕微鏡の像面に像を作ります。このレンズは、対物レンズの後ろ側焦点面について簡単に評価できるようになっており、照明開口絞りを正確に調節し、図2のような干渉像を表示できるようになっています。図2(a)と図2(b)では、偏光法で一軸性結晶を観察したときの干渉パターンを示しており、図2(c)のパターンは、1波長板を光路に挿入したときの一軸性結晶の典型的な像です。
- 補償板と波長板 - 多くの偏光顕微鏡には、交差偏光子の間に補償板や波長板を挿入するためのスロットがあり、標本の光路差を強調するために使用されます。ほとんどの最新の顕微鏡設計においては、このスロットは、顕微鏡のレボルバーまたは本体と接眼レンズ筒の間にある中間鏡筒のいずれかに配置されています。スロットに挿入した補償板は、標本と検光子の間に配置されることになります。
偏光観察法は、反射光(入射光または落射光)と透過光の両方で使用することができます。反射光は、セラミック、酸化鉱物や硫化鉱物、金属、合金、合成材、シリコンウェハーなど、不透明な物質の研究で使用すると便利です(図3を参照)。反射光技法では、カバーガラスを使わないように設計された専用の対物レンズのセットが必要になり、同時に偏光観察用の対物レンズは、歪みのないものでなければなりません。
図3 - 反射偏光観察法
図3で示しているのは、反射偏光観察法を使用して撮影した、典型的な標本の反射偏光顕微鏡写真です。左の写真(図3(a))は、マイクロプロセッサの集積回路の表面の特徴を表示したデジタルイメージです。このイメージでは、回路の製造で採用されている複屈折素子がはっきりと捉えられており、チップの算術論理演算装置の一部が表示されています。図3(b)では、セラミックの超電導結晶(ビスマスベース)の傷のある表面が表示されており、結晶粒界が散らばっている干渉色の複屈折結晶領域が示されています。金属の薄膜も反射偏光で表示することができます。図3(c)では、金属超格子アセンブリを構築するため、ニッケル/塩化ナトリウム基板の上に挟まれたコンフルエントな銅の薄膜(厚さ約0.1ミクロン)にできてしまった欠陥(ふくれ)を示しています。
偏光観察法で良好な結果を得るためには、標本の準備を慎重に行うことが必要不可欠です。その際に選択する方法は、研究対象の物質の種類によって決まります。地質学用途の場合、岩石の薄片の標準的な厚さは、25〜30マイクロメートルになります。標本は、ダイヤモンド含浸ホイールで研磨した後、研磨剤の砥粒のサイズを徐々に小さくしながら、正しい厚さになるまで手で仕上げることができます。最終的な標本は、光学透明接着剤で接着したカバーガラスを使用します。柔らかい物質の場合は、ミクロトームを使用して、生物試料と同様の方法で準備することができます。透過光観察では、1〜40マイクロメートル厚のスライスを使用します。この標本は、歪みがなく、ナイフマークがないものでなければなりません。生物標本などの柔らかい標本は、標本の化学的・物理的性質に適した組成を持つ封入剤を使用して、スライドとカバーガラスの間に挟みます。これは、合成高分子の研究の場合、一部の媒質が研究対象の物質と化学的に反応して構造を劣化変形させる可能性があるため(アーチファクト)、特に重要になります。
光学顕微鏡観察での偏光の実際
平面偏光法(光路から検光子を外した状態)または交差偏光子(光路に検光子を挿入した状態)を使用することにより、さまざまなレベルの情報を得ることができます。平面偏光での観察では、標本の光学的レリーフが詳細に表示され、境界の視認性が大幅に向上し、視認性は屈折率とともに増加します。封入剤と標本の屈折率の差によって、不均等な標本表面から光が出るときに光がどの程度分散するかが決まります。レリーフが高い物質は、イメージから浮き出たように見えますが、このような物質では、封入剤とかなり異なる屈折率になっています。屈折率がわからない物質を、屈折率が判明しているオイルと比較することによって測定する場合は、液浸屈折率測定法が使用されます。
平面偏光で透明または半透明の物質を試験する方法は、顕微鏡の光学軸を中心にして標本を回転させるという点を除けば、自然光での試験と似ています。この方法では、観察者は、試験対象の物質の明るさや色の変化を見ることができます。この多色性(光の振動方向によって吸収色が変化する状況を表すための用語)は、光路に対する物質の角度によって決まり、異方性を持つ物質のみの特性になります。多色性を示す物質の例として、一般的には青石綿として知られるクロシドライトがあります。多色性の効果は、広範囲に物質を識別する上で非常に有用になります。
図4 - ミッシェル‐レヴィの複屈折干渉色の図
偏光色は、異方性を持つ標本によって分けられた2つの光成分の干渉から発生するもので、相殺的に干渉する色を白色光からマイナスしたものと見なすことができます。図2では、対物レンズの後側焦点面で観察される一軸性結晶のコノスコープイメージを示しています。干渉パターンは、観察対象の結晶の異なる軸を通過する光線によって形成されます。一軸性結晶(図2)では、マルタ十字様のパターンを形成する2つの交差する黒い棒(アイソジャイアと呼ばれる)で構成された干渉パターンが示されます。複屈折の標本は、白色(偏)光で照射されると、干渉色の円形の分散を生成し(図2)、次第に色の次数が下がっていく(図4のミッシェル‐レヴィの干渉色の図を参照)イソクロームと呼ばれる内部の円が生じます。黒い棒とイソクロームの両方に共通する中心部分は、メラトープと呼ばれ、結晶の光学軸に沿って通る光線がその原因になっています。二軸性結晶では、2つのメラトープが現れ(図では示されていない)、干渉リングははるかに複雑なパターンになります。
光の2つの直交成分(正常波と異常波)は、標本内を異なる速度で通過し、異なる屈折率になりますが、これは複屈折と呼ばれる現象です。複屈折の定量的な測定値は、波面の屈折率の数値的な差になります。速い方のビームが最初に標本から出てきてから遅い方のビームが出てくるまで、光路差(OPD)と呼ばれる「着差」が発生します。検光子は、同じ方向に進み同じ平面で振動する2つのビームの成分のみを再結合します。偏光子は、コントラストを最大にするために、再結合の際に2つのビームが同じ強度になるようにします。
チュートリアル - 偏光子の回転と標本の複屈折 (English)
偏光顕微鏡で観察するときに、標本の複屈折が偏光子の角度によってどのように影響を受けるか確認することができます。
検光子を通過する光の建設的干渉および相殺的干渉は、標本の光路差と、偏光色の次数によって決まる光の波長に応じて、直交成分の間で発生します。
この効果は、2つの相互に垂直なビームの屈折率と複屈折の厚みの差(標本や標本内の光の伝播方向に応じて最大値を持つ)など、標本の特性によって変動します。標本から、有益な「傾斜」情報を引き出すために、光路差を使用することができます。
偏光色の情報には、輝度の成分も加わります。標本が偏光子との関係で回転するため、偏光色の明度は、0°(消失、図5(d))から45°の最大明度(図5(a))まで周期的に変動し、90°回転したら再び0°に戻ります。これは、回転ステージと心出し機能が偏光顕微鏡に付属している理由であり、これらは、標本の定量的な側面を判定する上で重要な要素になります。対物レンズとステージの中心を一致させることにより、ステージ回転の中心が視野の中心と一致するようになり、これによって、標本が回転するときに、それが中心位置に保たれるようになります。
図5 - 屈折率楕円体
標本が消光するとき、通過する光の許容振動方向は、偏光子または検光子の光と平行になっています。この事実は、繊維の長さ、膜の突出方向、結晶表面など、標本の幾何学的な特徴にも関連しています。交差偏光照明の場合、等方性を持つ物質はステージを360°回転させるときでもずっと消光している(暗いままである)ため、異方性を持つ物質と容易に区別することができます。
偏光色が(ダークグレーのような)低次の場合、高速な波面および低速な波面を識別しやすくしたり、コントラストを向上させたりするために、光路にアクセサリーの波長板または補償板を挿入することができます。これにより、標本に色の変化が起こるため、それを偏光色の図(図4 ミッシェル‐レヴィの図を参照)を使って解釈することができます。これらの図では、0から1800〜3100ナノメートルまで、光路差単位で、複屈折と厚さの値とともに、偏光色が示されています。波長板は、標本の光路差に加算または減算される、独自の光路差を生み出します。光が、標本に続いてアクセサリープレートを通過するとき、波長板と標本の光路差は、連続で行われる2つの競争の「着差」が計算されるような方法で、加算されるか減算されます。標本と波長板の遅い振動方向が平行の場合は加算され、標本の速い振動方向がアクセサリープレートの遅い振動方向と一致する場合は減算されます。波長板で遅い方向と速い方向がわかっている場合(市販のプレートの場合、通常、マウントに記述されています)は、標本の値を推定することができます。これらの方向は、さまざまな媒質の特徴になっているため、調べる価値があるもので、方向研究と応力研究において必要不可欠になっています。
偏光観察法の応用
偏光観察法の威力は、特定のケーススタディおよびそれに対応する画像を調べることでもっともうまく示すことができます。この節で紹介するすべてのイメージは、分析調査用に設計された研究グレードの顕微鏡に偏光アクセサリーを装備して記録したものです。すでに述べたように、偏光観察法は、医学、生物学地質学、材料科学、食品産業など、広範囲の用途で利用されています。交差偏光子の間に入れて簡単に試験できる標本は、さまざまな天然資源と合成材料にまたがりますが、特に痛風結晶、アミロイド、筋肉組織、歯、鉱物、固体結晶、液晶、繊維、脂肪、ガラス、セラミック、金属、合金などを挙げることができます。
痛風結晶の識別
もっとも一般的な偏光観察法の医学的応用例として、1波長板を使用した、痛風結晶(尿酸一ナトリウム)の識別が挙げられます。この方法は非常に一般的であるため、多くの顕微鏡メーカーが、研究室用明視野顕微鏡で使用するための痛風キットアタッチメントを提供しており、医師が購入できるようになっています。痛風は、尿酸結晶の沈殿によって起きる急性の再発病で、主に足と手で発生する、痛みを伴った関節の炎症と定義することができます。実際には、採取したばかりの滑液を数滴顕微鏡のスライドとカバーガラスの間に挟み、乾燥を防ぐためにマニキュア液で密封します。標本の準備ができたら、1波長板を光路に入れた状態で、交差偏光子の間で検査します。
図6 - 痛風結晶および偽痛風結晶の干渉色
尿酸一ナトリウム結晶は、負の複屈折光学特性を持つ細長いプリズム状に成長しますが、結晶の長軸を1波長板の遅い軸と平行方向に向けると、黄色の干渉色(減算)を生成します(図6(a))。結晶を90°回転させると、干渉色が青に変わります(加算、図6(b))。対照的に、偽痛風のピロリン酸結晶の場合、似たように細長く成長するという特徴を持っていますが、波長板の遅い軸と平行にすると青の干渉色を示し(図6(c))、垂直にすると黄色の干渉色を示します(図6(d))。複屈折の特性は、痛風結晶とピロリン酸結晶とを区別するために利用することができます。痛風は、四肢からとったヒト組織の薄片で偏光観察法を使用しても、識別することができます。偏光法はまた、医療分野において、代謝異常により生成し、その後さまざまな組織(脾臓、肝臓、腎臓、脳)に沈着するが、正常組織では見られないタンパク質であるアミロイドを識別する目的で利用することができます。
偏光観察法の威力は、特定のケーススタディおよびそれに対応する画像を調べることでもっともうまく示すことができます。この節で紹介するすべての画像は、分析調査用に設計された研究グレードの顕微鏡、ニコンEclipse E600に偏光アクセサリーを装備して記録したものです。
石綿繊維の識別
石綿は、自然界に存在する鉱物繊維の一群を示す一般名称で、絶縁材料、ブレーキパッド、コンクリート補強材として広く使われています。この物質は、吸入するとヒトの健康にとって有害であるため、環境内に存在することを簡単に識別できることが重要になります。標本は一般的に、走査型電子顕微鏡観察とX線マイクロアナライザーを使用して検査しますが、偏光観察法でも迅速かつ容易に、石綿とその他の繊維を区別できる他、クリソタイル、クロシドライト、アモサイトなど、石綿の主な種類について区別することもできます。医療の観点からは、角閃石系の石綿(クロシドライトとアモサイト)の方が、蛇紋石系のクリソタイルよりも有害と考えられています。
平面偏光法では、全体的な繊維形態、色、多色性、屈折率などに関する情報が提供されます。等方性を持つガラス繊維などは平面偏光下の回転によって影響を受けることはありませんが、石綿繊維では多色性が見られます。クリソタイル石綿繊維は、平面偏光下でパーマした髪やダメージヘアのようによじれて見えますが、クロシドライトとアモサイトはストレートになっているか、わずかに曲がっています。クリソタイルは屈折率が約1.550ですが、アモサイトは1.692、クロシドライトは一番高く、1.695です。角閃石系の石綿生成物の屈折率は、クリソタイルよりもはるかに高い値になっています。
図7 - 偏光法でのクリソタイル石綿繊維
交差偏光子を使用することによって、標本を通るときの光の許容振動方向を推定することができ、1波長板を使用することで速い振動方向と遅い振動方向の判断(図7)を確定することができます。交差偏光子を使用すると、クリソタイルには、基本的に低次の白に限定された、青い干渉色が現れます(図7(a))。1波長板を追加すると(遅延値は1波長分、つまり530〜560ナノメートル)、繊維の色が変換されます。繊維が北西-南東方向に向いている場合は、波長板が加算的に働き(図7(b)の白い矢印)、繊維内に主に黄色の減算干渉色が現れます。繊維が北東-南西方向に向いている場合は(図7(c))、波長板が加算的に働き、繊維が高次の薄青色になって、黄色の色合いはなくなります。このような証拠から、波長板の遅い振動方向(図7(b)と7(c)の白い矢印で示されているもの)が、繊維の長軸と平行であると推定することができます。この点では、アモサイトも同様です。
クロシドライトでは、青、多色性、暗褐色偏光色が現れます。この繊維の速い振動は、長軸と平行になります。以上をまとめると、この3種類の石綿繊維は、形状、屈折率、多色性、複屈折、速い振動方向と遅い振動方向によって識別することができます。
岩石層の歴史の解明
千枚岩 - 偏光観察法を使用して地質薄片の試験を行うと、鉱物成分に関する情報が集まるだけでなく、岩がどのように形成されたかについても詳しく知ることができます。千枚岩は変成岩ですが、熱と応力の影響のために、結晶が揃っているように見えます。平面偏光イメージでは小さなひだが見え(図8(a))、交差偏光子を使用すると1波長板がある場合、ない場合にかかわらず(図8(b))、よりはっきりと映ります。交差偏光子の画像では、いくつかの鉱物が存在することがわかり、石英がグレーと白で、マイカが高次の色で映されています。マイカの配列もはっきりと示されています。1波長板を追加すると、コントラストが向上し、イメージがより鮮明になります(図8(c))。
図8 - 偏光法での千枚岩の薄片
魚卵石 - 魚卵石は、小さい珪石粉で接着された魚卵状珪石で構成された明るいグレーの岩で、海中で形成されます。この鉱物の名前は、構造的に、キャビア、つまり魚卵に似ていることから来ています。魚卵石は、緩やかな潮流のために砂粒が炭酸カルシウムなどの鉱物の海底上を転がるときに海中で形成されます。これらの鉱物が砂粒の周りに堆積し、その後のセメント化によってまとまった岩へと変わります。薄片には、炭酸塩鉱物の堆積が発生したときの最初の石英の核が見られます(図9(a)〜(c))。
図9 - 偏光法での魚卵石の薄片
平面偏光(図9(a))では、石英はセメントと同じ屈折率を持っているため、ほぼ見えなくなっていますが、異なる屈折率を持つ炭酸塩鉱物はコントラストが高くなっています。交差偏光子のイメージ(図9(b))では、石英粒がグレーと白で、炭酸カルシウムが特徴的な明茶色がかった高次の白で映されています。中心部の石英粒の集まりは、多結晶の変成珪岩粒であることが見てとれます。光路に1波長板を挿入すると(図9(c))、標本の光路差が明確になり、コントラストが強くなります。
天然高分子および合成高分子
高分子溶融物の凝固の際、一部で高分子鎖の結合が生じることがあります。これは多くの場合、アニール条件に依存するプロセスです。核生成が起こるとき、合成高分子鎖はしばしば接線方向に整列し、固化した領域が放射状に成長します。これらは、交差偏光照明下で球晶と呼ばれる白い領域として映り、際立った黒い消光クロスが現れます。このような球晶同士がぶつかると、その境界は多角形になります。これは、交差偏光子を使用するとはっきり見ることができますが、平面偏光では見ることができません。
図10 - 偏光法での天然高分子および合成高分子
1波長板を追加すると(図10(a))、高分子鎖の接線方向の配列を確認することができます。これらの球晶で発生している筋は、溶融物がゆっくり冷却し、高分子鎖がらせん状に成長したことを示します。この熱履歴についての情報は、他の技法ではほとんど集めることができません。高分子溶融物の核生成は、偶発的な汚染や核生成表面との接触の結果として発生するもので、生産物の相当な劣化に繋がることがあります。核生成の識別は、品質管理においてきわめて重要な補助手段になります。
その他の高分子化合物には(図10(b)のポリカーボネート標本に見られるように)複屈折しないものもあり、しっかりした二次構造や三次構造が見られません。その他の場合として、生体高分子と合成高分子の両方で、一連のリオトロピックまたはサーモトロピック液晶相転移が起こることがあり、多くの場合、これを偏光顕微鏡で観察し記録することができます。図10(c)は、非常に高い水溶液濃度(300ミリグラム/ミリリットル)のときに、棒状DNA分子によって示された複屈折柱状六方晶液晶相を示しています。
ナイロン繊維 - 平面偏光で観察すると(図11(a))、ナイロン繊維と封入剤の屈折率の差や、不透明な二酸化チタン粒子の存在がわかります。交差偏光子を使用して観察した場合(図11(b))、二次および三次の偏光色が映されており、それが繊維全体に分散していることによって、それが円筒状の繊維であり、機械的強度を予測する際に有用な裂片状の繊維でないことがわかります。石英楔形検板を使用すると(図11(c))、複屈折測定に対する光路差を判定することができます。
図11 - 偏光法でのナイロン繊維
以上をまとめると、偏光観察法は、さまざまな試料の組成および三次元構造について、莫大な量の情報を提供します。その範囲はほぼ無限であり、この技法では、形成時に標本にかかった熱の履歴や応力や歪みに関する情報まで明らかにすることができます。偏光観察法は、製造や研究において有用であり、同時に、比較的安価で使いやすい研究ツールであり、品質管理ツールでもあります。他の技法では得られない情報も、この方法を使用すれば、手に入れることができるのです。
Contributing Authors
Philip C. Robinson - Department of Ceramic Technology, Staffordshire Polytechnic, College Road, Stroke-on-Trent, ST4 2DE United Kingdom.
Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.