偏光入門

日光や、他のほとんどあらゆる形式の自然照明と人工照明は、その電界ベクトルが、伝播方向と垂直のすべての平面で振動する光波を生み出します。その電界ベクトルが、特殊な物質により、光線のフィルタリングなどを通じて単一の平面に制約されると、その光は、平面偏光、または伝播方向と垂直の直線偏光と呼ばれます。単一の平面で振動しているすべての波は、平行平面偏光または平面偏光と呼ばれます。
図1 - 光の偏光
ヒトの目は、ランダムな方向の光と偏光とを区別する能力がなく、平面偏光は、たとえば偏光サングラスを着用してグレアを減らすなど、強度と色彩効果を介してでなければ識別することができません。実質的にヒトは、偏光顕微鏡で観察された高コントラストの実際のイメージと、デジタルな(またはフィルム上に定着させる)方法で取得し、偏光されていない光で画面に投影された同じ試料の同一のイメージを区別することができません。偏光の基本的な概念を図1で示しており、ここでは非偏光光線の2つの直線偏光子への入射を示しています。電界ベクトルは、入射光線において、あらゆる方向に振動している正弦曲線として示されています(360゜、図では60゜間隔の6つの波として示されています)。実際には、入射光の電界ベクトルは、伝播の方向に対して垂直に振動しており、最初の偏光子に当たるまではすべての平面において均等な分布を持っています。
図1に示している偏光子は、実際には、一つの方向を向いている長鎖重合体分子を含むフィルターです。ポリマー平面に対して直角に振動している光は最初の偏光フィルターを通過し、配向重合体分子と同じ平面で振動している入射光のみが吸収されます。最初の偏光子は、その偏光方向が入射光と垂直方向になっているため、垂直電界ベクトルを持つ波のみがそこを通過します。最初の偏光子を通過している波は、その後、2番目の偏光子で遮断されます。これは、この偏光子が、光波の電界ベクトルと水平方向に向いているためです。互いに直角方向を向いている2つの偏光子を使用するという考え方は、一般的に交差偏光と呼ばれており、偏光顕微鏡法の概念の根底を成しています。
偏光の存在については、1669年頃に最初の手がかりが見つかりました。このとき、エラスムス・バルトリンが、透過光の下、氷州石(無色透明の方解石の一種)鉱石の結晶でものを見ると二重に見えることを発見しました。バルトリンはまた、実験中にきわめて異常な現象を観察しました。方解石結晶を特定の軸を中心にして回転させると、像の1つが、別の像の周囲を円状に動いたのです。これは、この結晶が何らかの形で光を2つの異なる光線に分離しているということの有力な証左でした。
図2 - 方解石結晶の複屈折
その1世紀後、フランスの物理学者、エティエンヌ・マリュスは、方解石結晶を通じて反射した像を検証し、ある特定の環境下では、像の1つが消えることに気付きました。このとき彼は、通常の日光が2つの異なる光の形式で構成されており、それが方解石結晶の中を異なる経路で通ったという誤った推測を行いました。後にこの差は、この結晶を通過している光の極性のせいで発生するという結論が出されました。日光は、あらゆる平面で振動している光によって構成されており、一方で反射光は往々にして、光が反射する表面と平行な単一の平面に制約されます。
偏光は、吸収、屈折、反射、回折(または散乱)、さらには複屈折(二重屈折の特性)として知られている現象を含み、光線を逸脱させる一般的な物理現象から生じることがあります。誘電(または絶縁)物質の平面で反射する光は、多くの場合、部分的に偏光し、物質の表面と平行な平面で振動する反射光の電気ベクトルを伴います。偏光を反射させる表面の一般的な例としては、穏やかな水面、ガラス、シートプラスチック、高速道路などがあります。このような事例では、表面と平行な電界ベクトルを持つ光波が、異なる方向のものと比べて大きい角度で反射します。絶縁表面の光特性によって、偏光する反射光の正確な量が決まります。鏡は、広いスペクトルを持つ透明物質が非常に優れた偏光子として機能しますが、入射光の角度が一定の制限内におさまっている場合に限られるため、良い偏光子にはなりません。偏光の重要な特性は、偏光の角度が光の入射角度によって決まるということで、入射角度が小さくなると、偏光の量が増加します。
非偏光の絶縁表面への入射について考えると、反射光が単一の平面ですべて偏光になる固有の角度があります。この角度は一般的にブリュースター角と呼ばれ、空気中を進む光線の場合、次の式を使用して簡単に計算することができます。
Formula 1 - Brewster's Angle
n = sin(θi)/sin(θr) = sin(θi)/sin(θ90-i) = tan(θi)
ただしnは、光が反射する媒質の屈折率、θ(i)は入射角、θ(r)は屈折角です。この式を検証すると、ブリュースター角から、未知の試料の屈折率を算出できることがわかります。このような機能は、透過光の吸収係数が高く、通常のスネルの法則の式が使えない不透明物質の場合に特に便利になります。反射技法で偏光の量を求める方法を利用すると、マークされていない偏光フィルム上で偏光軸を求めるのが容易になります。
図3 - ブリュースター角
ブリュースター角の原理について、空気より屈折率が高い透明な媒質の平面で反射した単一の光線を例にとり、図3で示します。入射光線には、2つの電気ベクトル振動平面のみを追加していますが、光では伝播方向に対して垂直なすべての平面に振動が発生しており、この図ではそれを表現しています。光線が臨界角(ブリュースター角、図3では変数θで表現)で表面に到着すると、反射光線の偏光度は100%になり、電気ベクトルの方向は、入射面に対して垂直で、反射面に対して平行になります。入射面は、入射波、屈折波、反射波によって定義されます。屈折光線は、反射光線と90゜の角度をとり、部分的にのみ偏光します。
水(屈折率1.333)、ガラス(屈折率1.515)、ダイアモンド(屈折率2.417)の場合、臨界(ブリュースター)角は、それぞれ53゜、57゜、67.5゜になります。高速道路の路面で光がブリュースター角で反射すると、しばしば集中力を阻害する厄介なグレアが生み出されます。この状況は、暑い夏の日中に、高速道路の遠くの部分やプールの表面を見ると、容易に確認できます。近年のレーザー光は一般的に、ブリュースター角を利用して、レーザー共振器の端部付近に設置された鏡面の反射により直線偏光を生み出します。
ここまで説明したように、高速道路やプールなどの水平表面から生じる明るい反射光は、部分的に偏光し、電界ベクトルが地表と平行な方向で振動します。この光は、図4のように、偏光サングラスなどを使用し、垂直方向に向けた偏光フィルターで遮断することができます。サングラスのレンズには、フレームに対して垂直に向いた偏光フィルターが搭載されています。図では、青い光波の電界ベクトルが偏光レンズと同じ方向を向いているため、この電界ベクトルはレンズを通過します。対照的に、赤い光波は振動方向が、フィルターの向きと垂直であるため、レンズによって遮断されます。太陽光の下でドライブするときや海岸に出るとき、日光が道路や水の表面で反射し、その結果、目をくらますようなグレアが発生することから、このような偏光サングラスを使用することが非常に有効になります。写真では、偏光フィルターがきわめて有用で、カメラレンズの前に取り付けることで、グレアを減らし、写真またはデジタルイメージの全体的なイメージコントラストを向上させることができます。
カメラで使われている偏光子の場合、一般的にマウントリングが搭載されており、これを回転させることによって、さまざまな照明条件に合わせて所定の効果をあげられるようになっています。
図4 - 偏光サングラスの働き
最初期の偏光フィルターは、偏光の性質について精力的に研究を行っていたフランスの科学者、フランソワ・アラゴが19世紀初頭に作り出しました。アラゴは、空のさまざまな光源から発生する光の極性について研究し、光が密度の高い媒質を通過するときその速度が低下すると予想する理論を発表しました。彼はまた、オーギュスタン・フレネルと共同で、偏光の干渉について研究し、互いに垂直方向に振動している2つの偏光光線は干渉し合わないということを発見しました。アラゴの偏光フィルターは、1812年に設計され作成されましたが、ガラスを重ねて圧着させたものでできていました。
今日使用されている偏光物質の多くは、1932年にエドウィン H. ランド博士が発明した合成フィルムでできています。この素材が普及すると、平面偏光を生み出すための媒質としてそれまで使用されていた他の物質は、すぐにこれに置き換えられました。フィルムを製造する場合は、硫酸ヨードキニンの小さい晶子を、同じ方向に向けて、結晶が動いたり位置が変わったりしないように透明なポリマーフィルムに埋め込みます。ランドは、ポラロイドという商標(登録商標)を付けて売り出す偏光フィルムを含むシートを開発しました。これがその後、このシートを示す一般名称として広く受け入れられるようになりました。自然の(非偏光)白色光から平面偏光を選択できる装置は、現在どれもポーラライザーまたは偏光子と呼ばれていますが、この名前は1948年、A. F. ハリモンドによって最初につけられたものです。これらのフィルターは、偏光子の軸に対する方向によって、光線を特異的に透過できるため、二色性(ダイクロイズム)の一形式を表しており、そのためにダイクロイックフィルターと呼ばれることもあります。
偏光顕微鏡法は、19世紀に最初に発表されましたが、そのときは、透過偏光物質を採用する代わりに、入射平面に対して57゜にセットした重ねたガラスプレートの反射によって光を偏光していました。後に、もっと進歩した機器が登場し、この機器では、二重屈折する物質(方解石など)の結晶を特別な方法で切断して貼り合わせプリズムを作って、これを利用していました。白色の非偏光光線が、この種の結晶に入ってくると、相互に垂直な(直交する)方向に偏光された2つの成分に分離します。
複屈折結晶から出てくる光線の1つには常光線という名前がついており、もう一つは異常光線と呼ばれます。常光線は、結晶内の静電気力によってより大きな角度で屈折し、全反射の臨界角で接合面に衝突します。結果として、この光線はプリズムから反射し、光学マウントで吸収されてなくなります。異常光線の方は、プリズムを通り、コンデンサー内をそのまま通過して試料(顕微鏡のステージ上に配置されたもの)に到達する直線偏光の光線として現れます。
プリズムを使った偏光装置にはいくつかのバージョンがあって、どれもかつて広く利用されており、それぞれの装置には通常、その設計者の名前がつけられています。もっとも一般的な偏光プリズム(図5を参照)には、1829年、氷州石の2枚の結晶を最初に切り出してカナダバルサムで接合したウィリアム・ニコルの名前がつけられています。このニコルプリズムは最初に、複屈折合成成分の偏光角度を測定するために使用されましたが、このことが、偏光と結晶質との相互作用の理解において、新しい進展をもたらしました。
図5 - ニコルの偏光プリズム
図5で示しているのは、典型的なニコルプリズムの構成図です。二重屈折(複屈折)物質の結晶、通常は方解石ですが、これをa-b-c-dの面に沿って切断し、切断した断片を接合して、元の結晶の形状を再現します。非偏光白色光の光線が、左から結晶に入り、互いに垂直方向に偏光する2つの成分に分離します。これらの光線の一つ(「常光線(ordinary ray)」というラベルが付いているもの)がより大きな角度で屈折し、接合境界に衝突しますが、このときの角度のために上部の結晶面で全反射し、光線がプリズムから出ていきます。もう一方の光線(異常光線)は、小さい角度で屈折してプリズム内を通り、平面偏光光線として出ていきます。
その他のプリズム構成も、19世紀から20世紀初頭の間に提案され作成されましたが、現時点では、現代の用途において偏光を生成する目的で利用されることはありません。ニコルプリズムは非常に高価でかさばり、開口部も非常に制限されるため、高い倍率での利用については制約があります。現在では、偏光は一般的に、このプリズムを使わずに、フィルターの透過軸が、偏光物質を構成する線状重合体や結晶の方向と垂直なフィルター媒質(偏光シートなど)で、特定の振動方向を持つ光を吸収することによって生成されます。
現代の偏光子では、偏光子の結晶軸と平行な電気ベクトルの振動を持つ入射光波が吸収されます。入射波の多くは、傾いたベクトル方向を持っていますが、結晶軸と垂直ではないため、吸収されるのは一部分だけです。傾いた光波の吸収の度合いは、偏光子に衝突する際の振動の角度によって決まります。これらの光線で結晶軸と平行に近いものは、垂直に近い角度の光線よりもはるかに多く吸収されます。もっとも一般的なポラロイドフィルター(Hシリーズと呼ばれるもの)は、入射光線の約25%しか透過しませんが、透過光線の偏光の割合は99%を超えています。
多くの応用例、ほとんどは偏光顕微鏡ですが、そこでは、交差偏光子を使用して、複屈折つまり二重屈折の試料を検査しています。2つの偏光子が交差している場合、その透過軸は互いに垂直に配されているため、最初の偏光子を通過した光は、2番目の偏光子、一般的に検光子と呼ばれるものですが、ここで完全に消滅するか吸収されます。偏光子が交差した状態で利用されているときにランダム光がどれだけ消滅するかは、ダイクロイック偏光フィルターの光吸収性能によって決まるもので、これは偏光子の消光率と呼ばれます。定量的に考えると、消光率は、透過軸が平行に配置されているときに一対の偏光子を通過する光の量と、それが互いに垂直に配されているときに通過する光の量の割合で決定されます。偏光顕微鏡で、漆黒の背景と、観察可能な試料の最大の複屈折(およびコントラスト)を実現するためには、一般的に10,000から100,000の消光率が必要になります。
図6 - 検光子を透過する偏光
交差した高品質の偏光子を通過する光の量は、偏光子に対して検光子がどのような向きになっているかで決まります。偏光子が互いに垂直になっている場合、最大レベルの消滅が起こります。ただし他の角度では、図6のベクトル図で示しているように、消滅の度合いが変動します。交差した偏光子を通過する光の量をコントロールするときは、検光子が利用され、通過する偏光の強さをいろいろと変えるために、検光子を回転させることができます。図6(a)では、偏光子と検光子の透過軸が平行であり、偏光子と検光子を通過する光の電気ベクトルが同じ強度で、互いに並行になっています。
図6(b)のように、検光子の透過軸を、偏光子の透過軸から30゜だけ回転させると、そこを通過する光波の強さが減少します。この場合、偏光子を透過した偏光が水平成分と垂直成分に分解され、検光子を通過できる偏光の強さをベクトル計算によって判定することができます。検光子を透過する光線の強さは、垂直ベクトル成分と同じになります(図6(b)の黄色い矢印で示しているもの)。
検光子の透過軸をさらに回転させ、偏光子の透過軸と60゜になるようにすると、検光子を透過するベクトル成分の強さがさらに減少します(図6(c))。検光子と偏光子が完全に交差すると(90゜)、垂直成分がごくわずかになり(図6(d))、偏光子は最大の吸光値を達成することになります。
2つの偏光子を通過する光の量は、マリュスの余弦二乗法則を適用することによって、次の式を使用し、偏光子の透過軸間の角度の関数として定量的に表すことができます。
Formula 2 - Malus's Law
I = I(o) • cos2θ
ただしIは、検光子を通過する光の強度(および2つの交差偏光子を通過する光の総量)、I(o)は偏光子に入射する光の強度、θは偏光子の透過軸と検光子の透過軸との角度です。この式を検証すると、2つの偏光子が交差しているとき(θ = 90゜)に強度がゼロになるということを確認することができます。この場合、偏光子を通過する光は、検光子で完全に消滅します。偏光子が30゜、60゜で部分的に交差している場合、検光子を透過する光は、それぞれ25%、75%減少します。
散乱光の偏光
大気中の気体分子と水分子は、太陽からの光をあらゆる方向に散乱させます。これが青い空、白い雲、赤い夕焼け、さらには大気偏光と呼ばれる現象を生み出すことになります。1871年にレイリー卿が示したように、散乱する光(レイリー散乱と呼ばれるもの)の量は、分子(水素、酸素、水)の大きさと光の波長によって変動します。赤、オレンジ、黄などの比較的長い波長は、紫や青などの比較的短い波長ほどは有効に散乱しません。
図7 - 散乱した日光の偏光
大気偏光は、大気中の気体分子が日光をレイリー散乱させた直接的な結果として現れます。太陽からの光子と気体分子からの光子が衝突すると、その光子の電界によって振動が起こり、それに続いて分子から偏光が再放射されます(図7を参照)。放射された光は、太陽光の伝播の方向と直角の方向に散乱し、散乱の方向に応じて垂直または水平に偏光します。地球に届く偏光の大半は水平に偏光されますが(50%以上)、この事実は、ポラロイドフィルターを通して空を見ると確認することができます。
特定種の昆虫や動物は偏光を感知できるということが、数々の報告によって示されています。これには、アリ、ショウジョウバエ、特定の魚類などが含まれますが、こういった生物をリストするとずっと長くなります。たとえば、いくつかの昆虫(主にミツバチ)は、目的地をめがけて飛ぶために偏光を利用していると考えられています。また、一部の人々が偏光に敏感であるということが広く信じられており、こういう人々は太陽の方向と垂直な方向を凝視すると、青い空に黄色の横線が重なっているのを見ることができます(ハイディンガーのブラシと呼ばれる現象)。黄斑と呼ばれる黄色の色素タンパク質は、ヒトの目の中心窩に存在する二色性の結晶ですが、ヒトが偏光を見ることができるのはこの器官のおかげだと考えられています。
楕円偏光および円偏光
ここまで説明したように、直線偏光の場合、電気ベクトルは、伝播方向に対して垂直な平面で振動しています。太陽光のような自然光源、それから白熱灯や蛍光灯のような人工光源はすべて、空間と時間が無規則な電気ベクトルの方向に、光を放射します。この種の光は、非偏光と呼ばれています。また、楕円偏光の場合、直線偏光と非偏光の間に位置する複数の状態があり、この状態では、電界ベクトルが、光波の伝播方向に対して垂直なすべての平面で楕円形を描きます。
楕円偏光は、平面偏光や非偏光と異なり、光線の伝播(入射)軸周辺の電気ベクトルの回転方向を示す回転の「分類」があります。真横から見ると、偏光の方向は、左回りか右回りになっており、これが楕円偏光の回転方向と呼ばれる特性です。時計回りの回転ベクトルが右円偏光、反時計回りの回転ベクトルが左円偏光と呼ばれます。
偏光の楕円の長ベクトル軸と短ベクトル軸が同じ場合、その光波は円偏光のカテゴリーに入り、分類は左回りまたは右回りのいずれかになります。楕円偏光における電気ベクトル成分の短軸がゼロになるケースもあり、その場合、その光は直線偏光になります。これらのそれぞれの偏光モチーフは、適切な光学機器を使用すれば、研究所内で実現することができ、これは自然光の非偏光でも起こります(程度の差はありますが、わずかです)。
光線が複屈折結晶を通過するときに発生する常光波および異常光波は、互いに垂直の平面偏光電気ベクトルを持ちます。また、結晶を通過するときにそれぞれの成分で生じる電子的相互作用の差のために、通常、2つの波の間で位相のずれが起こります。前に説明したように、常光波と異常光波は独立した軌道を通り、方解石結晶の中で広く別れますが、これは通常、入射照明の平面に垂直な光学軸を持つ結晶物質では起こりません。
図8 - 楕円偏光波および円偏光波
補正板や波長板として知られる特殊な物質は、偏光顕微鏡を含むさまざまな用途において、楕円偏光や円偏光を生成する上できわめて有用です。これらの複屈折物質が選ばれるのは、その光学軸が入射光線と垂直に配置されているときに、常光線と異常光線が同一の軌道を通り、複屈折の程度に応じた位相差を示すためです。直角な2つの波が重ね合わされているため、小さい位相差によって分割される互いに垂直な電気ベクトル成分を持つ単一の波と考えることができます。三次元空間でベクトルが単純な加算で組み合わされるとき、生成する波は楕円偏光になります。
この概念を図8で示しています。ここでは、生成する電気ベクトルは単一の平面で振動しませんが、光波伝播の軸周辺で回転しながら前進して、ある角度で波を見たときにらせん状に見える楕円軌道を辿っていきます。(同じ強さの)常光波と異常光波の位相差の大きさによって、波を伝播方向の真横から見たときに、ベクトルが楕円軌道になるか円軌道になるかが決まります。位相のずれが波長の4分の1または4分の3のいずれかの場合、生成するベクトルは円軌道になります。ただし、2分の1波長または全波長の位相のずれが生じると直線偏光になり、その他の位相のずれについては、さまざまな楕円率の軌道が生成します。
複屈折結晶から常光波と異常光波が現れるとき、この光波は、互いに垂直な平面で振動しており、合計の強度が個々の強度の合計になります。偏波は、垂直な平面で振動する電気ベクトルを持っているため、その偏波が干渉を受けることはありません。この事実が結果的に、複屈折物質が像を生成する能力になります。干渉は、2つの波の電気ベクトルが同じ平面で振動する場合にのみ起こり、交差するときに、生成する波の強さの変化が生じます(像の生成の必須条件)。そのため、複屈折の透明な試料は、交差偏光子を通さなければ見えないままです。ちなみにこの交差偏光子は、観察者にもっとも近い偏光子の軸と平行な楕円偏波と円偏波の成分のみを通過させるものです。このような成分は、コントラストをもたらす強さの変動を生み出すことができ、偏光子を通して直線偏光として現れます。
偏光の用途
偏光の用途としてもっとも一般的で実際的なものに、腕時計、コンピュータ画面、タイマー、時計など、さまざまな装置で使用される液晶(LCD)があります。これらのディスプレイシステムは、棒状の液晶分子と、電界や偏波との相互作用に基づいています。液晶相は、コレステリックと呼ばれる基底状態で存在していますが、この状態では、分子が層状に並んでおり、隣り合う層ごとにらせんパターンの形状で少しずつねじれています(図9)。偏波が液晶相に作用すると、偏波は、入射波と約90゜の角度で「ねじれ」ます。この角度の正確な大きさは、コレステリック液晶相のらせんピッチの関数になり、このらせんピッチは分子の化学組成によって変動します(分子構造に少し変更を加えることで微調整することができます)。
図9 - 7セグメント液晶ディスプレイ(LCD)
ディスプレイ装置への液晶の応用を紹介するための優れた例として、7セグメント液晶数字ディスプレイを挙げることができます(図9を参照)。この場合、図で示しているように、液晶相は、電極が取り付けられている2枚のガラスプレートで挟まれています。図9のように、ガラスプレートは、個別に荷電できる7個の黒い電極で構成されています(実際の機器では、これらの電極は光を透過します)。偏光子1を通過した光は垂直方向に偏光されますが、電極に電流が流れていない場合は液晶相が光の90゜の「ねじれ」を誘発し、それが偏光子2を通過させます。この偏光子は水平に偏光するもので、偏光子1と垂直の向きになっています。この光が、その後、ディスプレイ上の7セグメントの1つを形成することができます。
電極に電流が流れている場合は、液晶相が電流で調整され、コレステリックのらせんパターンが失われます。荷電された電極を通過する光はねじれないため、偏光子2で遮断されます。7つの正負の電極で電圧を調整することによって、ディスプレイに数字の0から9を表示できるようになっています。この例では、右上、左下の電極が荷電され、そこを通過する光を遮断することで、ディスプレイ装置上に数字「2」を形成しています(数字は逆に表示されています)。
特定の化学物質における旋光性の現象は、偏光の平面を回転させる機能をもたらしています。このカテゴリーには、多くの糖類、アミノ酸、有機自然製品、特定の結晶、一部の薬物などが入ります。この回転の度合いは、偏光器と呼ばれる機器で、ターゲットとなる化学物質の溶液を交差偏光子の間に入れることによって測定します。旋光性は、1811年に、フランスの物理学者、ドミニク・アラゴによって初めて観察されたものですが、分子の構造幾何学がその相互作用に影響を及ぼすさまざまな生化学プロセスにおいて重要な役割を果たします。偏光の振動平面を時計回り方向に回転させる化学物質は右旋性の物質と呼ばれ、光を反時計回り方向に回転させるものは、左旋性の物質と呼ばれます。同じ分子式を持つにもかかわらず光特性が異なる化学物質は光学異性体と呼ばれ、偏光の平面を異なる方向に回転させます。
電界を表面に適用するときに偏光を生成させるようにするためには、非対称の結晶を使用することができます。この原理を利用している一般的な科学機器に、ポッケルスセルと呼ばれるものがあり、これは、偏光の方向を90゜変更させるために偏光と組み合わせて使用することができます。ポッケルスセルは、電流によってオンとオフを高速に切り替えることができるため、光をごく短い時間だけ(ナノ秒単位)通過させる高速シャッターとしてよく使用されます。図10に示しているのが、ポッケルスセルを通る偏光の模式図です(黄色)。セルの中心領域から出ている緑と赤の正弦光波が、垂直または水平に偏光されます。セルがオフの場合、そのまま通過するため偏光は影響を受けませんが(緑の波)、オンにすると、光線の電気ベクトルが90゜シフトされます(赤の波)。極端に大きい電界が利用可能な状況であれば、特定の液体および気体の分子が、異方性の結晶として機能させることができ、同じ方法で方向を調整することができます。カーセルは、結晶の代わりに液体と気体を入れるような設計になっており、これにも偏光の角度を変える機能があります。
図10 - ポッケルスセルの構造
偏光のその他の用途として、前に紹介したポラロイドサングラスや、カメラのレンズで使用する特殊な偏光フィルターがあります。さまざまな科学機器で偏光が利用されており、レーザーで放射する偏光や、数多くの技法を使用した白熱灯光源と蛍光光源による偏光などが利用されています。偏光子は、グレアを減らし、より均等な照明を生み出すために、室内やステージの照明で使用されることがある他、三次元映画で見かけ上の奥行き感をもたらすためのメガネにも使われます。交差偏光子は、宇宙飛行士が昼寝しているときに太陽からの光が目に入らないようにするため、宇宙服でも利用されています。
偏光は、光学顕微鏡のさまざまな局面において非常に有用です。偏光顕微鏡は、主にその光学的な異方特性のために見えるようになる試料について観察や写真撮影を行うためのものです。異方性のある物質には、それを通過する光の伝播方向によって変わる光特性があります。そのため、この仕事を行うためには、顕微鏡に偏光子と検光子(2番目の偏光子)の両方を搭載しなければならず、偏光子は光路内の試料の前、検光子は光路内の対物レンズの後方開口部と鏡筒またはカメラポートの間に配置します。
画像のコントラストは、平面偏光と複屈折(つまり二重屈折)試料の相互作用により、互いに垂直な平面で偏光する2つの個別の波成分を生成させることによって向上させます。これらの成分の速度は異なり、試料内の伝播方向に応じて変動します。光の成分は、試料を出た後、位相が不一致になって、伝播方向に対して垂直な楕円形状を辿っていきますが、検光子を通過するときは、建設的干渉と相殺的干渉を通じて再び結合します。偏光顕微鏡法は、明視野照明法や暗視野照明法、微分干渉法、位相コントラスト法、ホフマン変調コントラスト法、蛍光法などの他の技法と比較したとき、複屈折物質で取得した画像の品質が高くなるコントラスト強調技法です。しかも、偏光の使用によって、鉱物や同様の物質の光特性の測定が可能になり、未知の物質の分類や識別にも利用することができます。
Contributing Authors
Douglas B. Murphy - Department of Cell Biology and Microscope Facility, Johns Hopkins University School of Medicine, 725 N. Wolfe Street, 107 WBSB, Baltimore, Maryland 21205.
Kenneth R. Spring - Scientific Consultant, Lusby, Maryland, 20657.
Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.